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丹沢の病い1/10=森林の枯死

丹沢のブナ林の枯死について

これから、丹沢の森の現況をしっかりと理解しておくために、先日《丹沢をめぐる10の病い》で紹介した丹沢の森が直面している10の問題点(丹沢大山総合 調査学術報告書より)の一つ一つを取り上げて自分なりに整理していこうと思います。第1回目は《森林の枯死》について。特に「標高の高い地域におけるブナ 林などの立ち枯れの進行」が問題になっています。

例えば「心ある人は、一本のブナの苗木を山に植えるべし」(文芸春秋社より刊行『私の死亡記事』より中村敦夫さんの遺言*)と言われるほど、ブナ林は丹沢を含めた日本の森を象徴するほどの、なくてはならない樹木のひとつですが、1980年代中頃から丹沢の高域でのブナ林は立ち枯れなどによる衰退が目立ちはじめ現在にいたっています。丹沢大山自然再生委員会のウェブサイトには《ブナ林のピンチ》のページで「鍋割山、塔ノ岳、丹沢山、蛭ヶ岳、檜洞丸など、中央から東側の頂上に近いところで、ブナ林が枯れているのが目立つ」として、檜洞丸山頂の立ち枯れしたブナ林の写真を載せていますが、実に深刻な状況だということがわかります。

この衰退現象は丹沢以外の太平洋側のブナ林にも見られ、日本海側のそれは依然として元気なことから、地域的な環境問題に原因があるのではないかと言われてきました。また様ざまな環境調査もこれまでに実施された結果、今日ではブナ林の衰退の原因がほぼわかってきたようです。上述の丹沢大山自然再生委員会《ブナ林のピンチ》のページにもあるように、第一にオゾン濃度の上昇などによる大気汚染。オゾンは東京・横浜などの都市部で発生する窒素酸化物が太陽光に科学反応を起こしてできるのだそうです。丹沢大山総合調査学術報告書にも「酸性イオン濃度の高い霧は多くの場合、首都圏の汚染物質が北東風によって相模湾に移送された後、南風によって山域に運ばれた可能性がある。このことからは、立ち枯れの原因となっていると考えられる汚染物質は、山中を走る車からのものだけではなく、都市部で排出されるものに大きな原因があると考えられる。」とより詳しい記述もあります。この大気汚染に追い打ちをかけるのが、シカによる食害やブナハバチの大発生、これらも大きな脅威になっており、複合的にからみあった問題として認識する必要があります。

では、ブナ林再生のために何が私たちにできるのでしょうか。それは冒頭の「一本のブナの苗木を山に植える」ことをはじめとして、保護柵の設置や林床植生の 保全など複合的な取り組みが、長期にわたって必要になります。例えば、丹沢大山自然再生委員会《ブナ林のピンチ》のページにその方策の一端を紹介しています。また、丹沢大山総合調査学術報告書には最後に、自然環境の衰退には歯止めがかかっていないため「複雑な問題構造に対する分野を横断した総合的な施策の 実行」が課題であるとあります。そこにはオゾン発生の元凶である窒素酸化物の抑制という国家的レベルでの施策から、ボランティアの皆様の様ざまな活動まで、多層なレベルでの対策が不可欠ですが、私は、事業としての植樹の可能性をこれからさぐっていくつもりでいます。

私の死亡記事

*もちろん中村敦夫さんは、現在も現役でご活躍中です。このメッセージの引用元となった書籍『私の死亡記事』とは、存命中の経営者から文学者まで、多彩な顔ぶれの諸氏に対して、いずれ(そう遠くない時期に)来るであろう自身の死亡時に掲載したい記事原稿をご本人に依頼し、まとめて本にしたモノで実に百名を越える諸氏の死亡記事が掲載されています。刊行は2000年ちょうどですから、それから十数年経った今では、残念ながら先行された方がたも実際に現れつつあります。最後の周回に入った私のような年齢の者にとっては、大変興味深い書籍のひとつです。

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