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混植&密植(森の作り方05)

木を植えよ!sこれまで宮脇昭さんの『木を植えよ!』(新潮選書 2006年)を教科書にして《森の作り方》をシリーズで学習してきました。なにしろ、ついこの前までは植生についてはまったくの素人でしかなく、山の緑に触れては「マイナスオゾンが心地いい」などと、この程度のことしか感じることがなかった私のような人間には、ようやく分からなかったなかったことが、分かってきたという初歩的なレベルに到達したような思いです。

そこで、この学習で生まれてきたのが、二つの素朴な疑問です。宮脇さんによると、植樹には《混植・密植》が強い自然の森を作る上での不可欠なポイントになるとのことですが、

  1. 混植とは、具体的に何種類の樹種ほどを用意すべきなのでしょうか?
  2. 密植すれば、成長の途中で淘汰される樹木が必ず出てきますが、その平均的な割合は?また、多層群落の森の主木となるシイ・タブ・カシなどの常緑広葉樹だけでもすべて残すという植樹の手法はないものでしょうか?

この二つのことを次の学習テーマとして、ぜひとも解明してみたいものです。

宮脇さん!植樹時に用意する苗木は高木から下草まで、すべて必要ですか?

森の力宮脇さんの『森の力』(講談社現代新書 2013年)は、私の教科書『木を植えよ!』とはまたひと味違って、宮脇さんの困難な人生と、樹と共に歩んできたこれまでの実績をまとめた大変興味深い本です。このなかに、東京の真ん中にありながら、見事な多層群落を形成している事例として、「先人たちが知恵を絞ってつくった人工の森の世界最高傑作のひとつ」である明治神宮の杜の歴史と共に、浜離宮恩賜庭園のことが紹介されています。ここで、この庭園の森を構成する主な樹木11種が明記されていますので、を書き出してみましょう。(p174)

  • 高木  シラカシ、アラカシ(以上が土地本来の高木、他にタブノキ、スダジイも分布)
  • 亜高木 ヤブツバキ、モチノキ、シロダモ
  • 低木  アオキ、ヤツデ、ヒサカキ
  • 下草  ベニシダ、イタチシダ、ヤブラン

また、同書p180にはいつも、ポツンと一人で立っているクスノキとの比較で「タブノキであれば、同じ常緑広葉樹(亜高木のヤブツバキ、シロダモ、モチノキなど、低木のアオキ、ヤツデ、ヒサカキなど)とセットになった垂直的な多層群落を形成するものです。」と下草を除く7種類の樹種を挙げています。《混植》といっても、11種揃える必要があるのか、それとも主要な7種類程度でもOKなのでしょうか?

そして、これはウェブサイトからの引用になりますが、2000年度のさっぽろふるさとの森づくり植樹祭では「宮脇さんの指導のもとミズナラ、イヤタカエデ など12種類の苗木1万本を植樹」とあります。12種類の苗木ともなると、前述の浜離宮恩賜庭園の11種類と同等かそれ以上になります。宮脇さんは多層群落を構成するその土地の潜在自然植生の高木から下草までの苗を、しっかり揃えたのでしょうか?

では、丹沢の森の場合はどんな樹種を用意すべきなのでしょうか。
標高800m以下に分布する常緑広葉樹林(ヤブツバキクラス)のひとつ《ヤブコウジ—スダジイ群集》で多層群落を構成する日向山(標高380m)の11種類の樹を並べてみます。

  • 高木  スダジイ、モミ
  • 亜高木 アカガシ、ウラジロガシ、シロダモ
  • 低木  ヤブニッケイ、ヒサカキ、ヒサカキ
  • 下草  ホウライカズラ、テイカカズラ、ツルグミ

丹沢大山山系の 800m以下の常緑広葉樹林(ヤブツバキクラス)には《ヤブコウジ—スダジイ群集》の他にも多くの種類の群集が分布しており、標高800m以上の夏緑広葉樹林(ブナクラス)域には10種類を超す群集・群落が分布しているそうです。これら膨大な数にのぼる丹沢に特有の樹種の知識をしっかりと身につけるには、丹沢の森のプロフェッショナルを探して、なんとかお願いして教えを請うしかありませんね。

宮脇さん!密植でも、せめて高木だけは全部が生長する手法はないのでしょうか?

宮脇さんはご自身の著書の至る所で《混植・密植》の必要性を説いていますが、『鎮守の森』(新潮文庫 2007年)のなかで、この思想を次のように簡潔にまとめられています。

 鎮守の森・・・植物社会では生まれた途端に第二の関門にぶつかる。
それを私たちは「社会的な掟」、または「内因」といい、競争、我慢、共存の要素にまとめている。まず、生物社会にある程度の競争はつきものであるが、特に小さいときには競り合い効果、密度効果(デンシティ・エフェクト)といって、むしろ競り合った方が成長が促進される。成長したのちも競争あるいは自然淘汰は行われるが、生活形や能力の違うものの間では競争というよりむしろ共生状態になる。森林では、限られた空間のなかで高木と亜高木、低木、下草が養分、光、水分、空間の奪い合いをしているように見えるが、この森を構成している植物は実は競争しながら共生知っている。(p37-38)

こう述べられたあとで、さまざまな競争条件のもとでの植生と成長の詳しい比較をしています。大変興味深い、普遍的な考察なので、ついつい丹沢の森にあてはめて思いを馳せてしまいます。丹沢の森に関心がある方におススメしたい一冊です。
今日は(いつもそうですが)時間が来てしまいました。今日のテーマと素朴な疑問への追求はこれから始まります。(続く)

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