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丹沢の植生は30タイプ(1.自然植生)

丹沢の植生について丹沢大山総合調査学術報告書(2007年)は、丹沢の東と西の任意の区域(モニタリングエリア)を設け調べることで、全体で3oの群集・群落の分布を明らかにしています。
まず、基本的な植生を大きく3タイプに分類。

  1. 自然植生
  2. 代償植生
  3. 植林および人工草地

更に11群集、4亜群集、11群落、2植分、7植林の計35植生類型に分けた上で、これらを30のタイプの植生に分類。それぞれの植生の詳細をレポートしています。これから3回に分けて丹沢の植生を上記報告書に沿って学ぶことにします。まず、自然植生からその概略を見ていきましょう。

1.自然植生

自然植生

ここでは自然植生のなかで重要と思われる冒頭の4つの林型についてのみ細かく調べてみることにします。

1)
常緑広葉樹林
サカキ—ウラジロガシ群集シュンラン亜群集(アカガシ、ウラジロガシ優占林)

東丹沢エリアでは、標高約 500m 以下の塩水川、本谷川、布川などの川沿い岩角地に小面積で残存する常緑広葉樹林である。 植生高約 13 ~ 17m でウラジロガシ、アカガシ、アラカシ等が優占している。 また林内にはアセビ、 シキミ、ヒイラギ、テイカカズラ、ヤブツバキ、ヤマイタチシダなどの常緑植物が多数生育する。西丹沢エリアでは、 標高約500m 以下の世附川の支流大又沢沿いの傾斜地に小面積見られる他、 尾根部の南東斜面では標高約 900m の地点にも僅かながらみられる。 植生高は約 13 ~ 20m でウラジロガシ、アカガシ等が優占している。林内にはスズダケ、シキミ、ヒメカンスゲ、 カヤ、 ムラサキシキブ、コカンスゲ、 シュンランなどが生育している。(「東・西丹沢の植生比較—丹沢東西モニタリングエリアの植生」p68 )

上記報告書によると、関東以西の海抜800m以下の常緑広葉樹林帯(ヤブツバキクラス域)の群集は丹沢でもその多くを占めるのではなく、せいぜい局所的に「残存」しているに過ぎません。この地域の多層群落をここでおさらいすると、次のようになります。

◎東丹沢

  • 高木 :ウラジロガシ、アカガシ、アラカシ
  • 亜高木:シキミ、ヒイラギ、ヤブツバキ
  • 低木 :アセビ、テイカカズラ
  • 草本 :ヤマイタチシダ

◎西丹沢

  • 高木 :ウラジロガシ、アカガシ、カヤ
  • 亜高木:シキミ
  • 低木 :ムラサキシキブ、
  • 草本 :スズダケ、ヒメカンスゲ、コカンスゲ、シュンラン

2)
常緑針葉樹林
サカキ—ウラジロガシ群集モミ亜群集(モミ、ツガ優占林)

西丹沢エリアではみられないが、東丹沢エリアの札掛付近や本谷川沿いの標高約 750m 以下の斜面部には、モミ、ツガ、カヤなどの常緑針葉樹の優占する群落がややまとまってみられ、植生高は20 ~35mに達する。林内にはウラジロガシ、ヤブツバキ、ヒイラギ、テイカカズラなどの常緑植物の他、ムラサキシキブ、アブラチャン、イヌシデ、キブシ、クロモジなど夏緑樹も生育している。しかし、林床の植被率は10%以下と非常に低く、土壌の浸食もみられる。(「東・西丹沢の植生比較—丹沢東西モニタリングエリアの植生」p68 )

東丹沢にのみ分布する常緑針葉樹林ですが、針葉樹のためなのか、林床の状態が悪く、土壌浸食も見られるようです。この群集の主木であるモミやツガは夏緑広葉樹林と照葉樹林の境界域を中心とした地域に分布し、これを指して中間針葉樹林帯と呼ばれることもあるそうですが、これらの針葉樹は本来、山地の尾根や岩場などの表土の少ない場所に生育するものだそうです。

◎東丹沢

  • 高木 :モミ、ツガ、カヤ、ウラジロガシ、イヌシデ(落葉高木)
  • 亜高木:ヤブツバキ、ヒイラギ
  • 低木 :ムラサキシキブ、テイカカズラ、アブラチャン、キブシ、クロモジ
  • 草本 :スズダケ、ヒメカンスゲ、コカンスゲ、シュンラン

3)
常緑針葉樹林
イロハモミジ—ケヤキ群集

イロハモミジ-ケヤキ群集は、ヤブツバキクラス域の谷沿いのやや急傾斜地ではあるが、 土壌堆積が良好な立地に生育している。 植生高は約 15 ~ 20m でケヤキ、イロハモミジ、ウラジロガシ等が優占している。林床にはヤブツバキ、カヤ、ヒイラギ、テイカカズラ等の常緑植物やサワシバ、 アカシデ、コゴメウツギ、ヤマブキ等の夏緑樹もみられる。東丹沢エリアでは布川、本谷川などの谷部斜面下部に、また西丹沢エリアでは、大又沢下流の谷部斜面に小面積であるが生育している。(「東・西丹沢の植生比較—丹沢東西モニタリングエリアの植生」p68 )

落葉広葉樹の高木のイロハモミジ、ケヤキと常緑広葉樹ウラジロガシが主木として混在した群集。主に西丹沢に、東丹沢ではごく限られた所に分布しています。

  • 高木 :イロハモミジ、ケヤキ、ウラジロガシ、カヤ、サワシバ、アカシデ
  • 亜高木:ヤブツバキ、ヒイラギ
  • 低木 :テイカカズラ、コゴメウツギ、ヤマブキ
  • 草本 :

4)
常緑針葉樹林
タマアジサイ—フサザクラ群集

タマアジサイ-フサザクラ群集は、谷部の持続する崩壊によって土砂が堆積した渓畔部や、小渓谷の流出土砂の堆積した谷底部に成立するフサザクラ優占林である。植生高は約8~15mで、フサザクラの他、イヌシデ、クマシデ、チドリノキ等がみられ、林床にはクワガタソウ、ムカゴイラクサ、ヤマミズ、タチツボスミレ、サワハコベ、タマアジサイ等が生育している。東・西丹沢エリアでは、谷部や小渓谷部に帯状に成立している。(「東・西丹沢の植生比較—丹沢東西モニタリングエリアの植生」p68 )

落葉高木のフサザクラを主木とする群集が、斜面の崩落や土砂の流出により作られた堆積土壌に沿って帯状に分布。豊かな林床の群集を形成しています。

  • 高木 :フサザクラ、イヌシデ、クマシデ
  • 亜高木:チドリノキ
  • 低木 :タマアジサイ
  • 草本 :クワガタソウ、ムカゴイラクサ、ヤマミズ、 タチツボスミレ、サワハコベ

5)
山地夏緑広葉樹林
オオモミジガサ-ブナ群集

本群集は西丹沢エリアではみられない。東丹沢エリアの標高約1,400m以上の丹沢山や塔ノ岳の山頂、主稜線、尾根部に成立するブナ林である。植生高は約14~22mでブナが優占し、その他オオイタヤメイゲツ、トウゴクヒメシャラ、イトマキイタヤなどがみられる。林床はシカの食害が著しく、ササ類は衰退し、低茎の草本が優占する芝生状になっている。クワガタソウ、ミヤマタニソバ、タニタデ、タニギキョウ、モミジガサなどの他、有毒のマルバダケブキやバイケイソウ、シカの非嗜好性のホソエノアザミ、テンニンソウ、アシボソなどが多く生育している。(「東・西丹沢の植生比較—丹沢東西モニタリングエリアの植生」p68 )

丹沢のブナ林の衰退は深刻ですが、特に衰弱・枯死が激しいのは鍋割山、塔ノ岳、丹沢山、蛭ヶ岳など、東丹沢から丹沢中央の主稜線部にかけてだと言われています。その一方で1980年代にブナやモミの立ち枯れが観察されていた西丹沢の菰釣山では、最近では衰退がほとんど見られません。このブナの衰退は複合的な原因が積み重なったとする考えが一般的で、時代とともに原因も変化しているようです。21世紀に入って以降は、従来のシカの過密化に加え、大気汚染(オゾン)影響の加速化や温暖化影響の拡大、そしてブナハバチによる枯死拡大が大きいと言われています。

  • 高木 :ブナ、オオイタヤメイゲツ(落葉樹)、トウゴクヒメシャラ(落葉樹)
  • 亜高木:イトマキイタヤ(落葉樹)
  • 低木 :
  • 草本 :クワガタソウ、ミヤマタニソバ、タニタデ、 タニギキョウ、マルバダケブキ、バイケイソウ、ホソエノアザミ、テンニンソウ、アシボソ

6)
山地夏緑広葉樹林
ヤマボウシ-ブナ群集

丹沢山地の標高約 1,000m 以上に成立するブナ林で、 標高約 1,400m 以上にみられるオオモミジガサ-ブナ群集の下部に成立している、 植生高は約 12 ~ 24m で優占種は概ねブナで、その他高木層にはヨグソミネバリ、クマシデ,シナノキ、ミズナラ等がみられる。優占種以外で高い常在度を示す種は、スズダケ、ヤマボウシ、トウゴクミツバツツジ、リョウブ、アセビ、マメザクラ、ツクバネウツギ、コハウチワカエデ、サラサドウダン、ミズキなどが挙げられる。東丹沢エリアでは北部から西部にかけての丹沢山や塔ノ岳周辺に広くみられる。しかし優占種のブナは立ち枯れも多くみられる他、林床ではスズダケがほぼ全滅状態になるなどシカの食害が著しく、組成、構造は既報告のそれとは大きく異なる。これに比べ西丹沢エリアでは、シカの影響はまだ少なく、林床にはスズダケが優占し、 多くの本来のブナ林床生の種がみられる。(「東・西丹沢の植生比較—丹沢東西モニタリングエリアの植生」p68-69 )

オオモミジガサ-ブナ群集の下部に分布しているブナ林。西と東では植生の状態は大きく異なり、東丹沢では林床のスズタケの後退が著しいのに対して、西丹沢は群集本来の豊かな林床を保っています。

  • 高木 :ブナ、ヨグソミネバリ、クマシデ,シナノキ、ミズナラ、ヤマボウシ、コハウチワカエデ、ミズキ(以上落葉樹)
  • 亜高木:イトマキイタヤ、リョウブ(落葉樹)
  • 低木 :スズダケ、トウゴクミツバツツジ、アセビ、マメザクラ、ツクバネウツギ、サラサドウダン
  • 草本 :(不記載)

7)
山地夏緑広葉樹林
ブナ-ウラジロモミ植分(ヤマボウシ-ブナ群集ウラジロモミ優占林)

東丹沢エリアの丹沢山北部の三ツ峰周辺には、ウラジロモミの優占する群落がみられる。 植生高は約 17 ~ 23m でウラジロモミが優占し、その他高木層にはブナ、 シナノキ、アオダモなどがみられる。林床はシカの食害を受けており植被率も低く、 スズダケ、クワガタソウ、ホソエノアザミ、ヤマカモジグサなどがまばらに生育している。この群落は種組成的にはヤマボウシ-ブナ群集に含まれるが優占種が特異であるため区分された。 西丹沢エリアではまとまった群落はみられなかった。(「東・西丹沢の植生比較—丹沢東西モニタリングエリアの植生」p69 )

6)と同じくヤマボウシ-ブナ群集ですが、優占種が常緑針葉樹のウラジロモミのために、区別して扱われました。東丹沢エリア特有のウラジロモミの優占林です。

  • 高木 :ウラジロモミ(常緑針葉樹)、ブナ、シナノキ、アオダモ(以上落葉樹)
  • 亜高木:イトマキイタヤ、リョウブ(落葉樹)
  • 低木 :スズダケ
  • 草本 :クワガタソウ、ホソエノアザミ、ヤマカモジグサ

8)
山地夏緑広葉樹林
コカンスゲ-ツガ群集典型亜群集およびブナ亜群集(イヌブナ優占林)

ブナクラス域下部の標高約 700 ~ 1,000m の区域に成立する、高木層に主にイヌブナの優占する植生。植生高は約 17 ~ 23m でイヌブナのほか、ブナ、モミ、アカシデ、カヤなどを混生する。林床にはスズダケが優占し、その他コカンスゲ、イワガラミ、ミツバアケビ、クロモジ、ツクバネウツギなどがみられる。東丹沢エリアでは堂平周辺のヤマボウシ-ブナ群集下部にややまとまってみられる。西丹沢エリアでもヤマボウシ-ブナ群集の下部に帯状に広くみられる。(「東・西丹沢の植生比較—丹沢東西モニタリングエリアの植生」p69 )

東西の丹沢のヤマボウシ-ブナ群集の下部にみられるイヌブナの優占林。

  • 高木 :イヌブナ、ブナ、モミ、アカシデ、カヤ(以上落葉樹)
  • 亜高木:イトマキイタヤ、リョウブ(落葉樹)
  • 低木 :スズダケ、クロモジ、ツクバネウツギ
  • 草本 :コカンスゲ、イワガラミ、ミツバアケビ

9)
山地常緑針葉樹林
コカンスゲ-ツガ群集ツガ亜群集(モミ, ツガ優占林)

ヤブツバキクラス域上限に接したブナクラス域下部に相当する。標高 700 ~ 1,000m の区域にみられるモミ、ツガ優占の常緑針葉樹林。 植生高は約 20 ~ 27m と高く、 構成種はモミ、ツガの他、カヤ、イヌブナ、イヌシデ、ミズナラ等がみられる。林床の植被率は低く、 コカンスゲ、テイカカズラ、スズダケ、タチツボスミレ、キッコウハグマなどがまばらに生育している。東丹沢エリアでは札掛周辺の高海抜地、塩水川や本谷川上流部にまとまってみられる。西丹沢エリアでは小面積であるが中央部の林道沿いにみられた。(「東・西丹沢の植生比較—丹沢東西モニタリングエリアの植生」p69 )

東西の丹沢に見られるモミ、ツガ優占の常緑針葉樹林。

  • 高木 :モミ、ツガ(以上針葉樹)、カヤ、イヌブナ、イヌシデ、ミズナラ(以上落葉樹)
  • 亜高木:(不記載)
  • 低木 :スズダケ
  • 草本 :コカンスゲ、テイカカズラ、タチツボスミレ、キッコウハグマ

10-15)
山地渓畔・渓谷林、山地低木・マント群落、山地風衝地草原、山地崩壊地植生

自然植生のその他4種類の植生6タイプを一覧表にしてみました。

自然植生2

山地渓畔・渓谷林に分布する3つの群集・群落はいずれも湿潤な土壌が堆積した谷間や傾斜面凹状地に局地的に見られ、優占林により区分けされています。また山地低木・マント群落は 森林の周囲に発達するつる植物や小低木の群落で、丹沢でもブナ林の林縁などに成立。マント群落は一般的には森林内への風の吹き込みを防いだり、日光の直射による乾燥を防いだりして、袖群落とともに森林内の環境を保つ役割をもつと言われています。

最後に山の稜線に拡がるササ草原や崩壊地に特有な自然植生のタイプを並べています。

なお、日本全国の植生の詳細は1/25,000縮尺地図で表された《自然環境保全基礎調査 植生調査 2次メッシュ情報》として見ることができます。丹沢山系は主に以下の区分になります。

上記ウェブサイトを開くと、jpgやpdfファイル形式でデータをダウンロード可能です。
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