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《潜在自然植生》の森をA4×1枚で表す

去年の12月のこと、丹沢についての活動報告会があり、実際に丹沢の再生に関わっている人びとの話しを聞いてきたのですが、残念ながら宮脇さんの《潜在自然植生》の理論と実践に基づいて人工林から天然林へと丹沢の林質の転換を図ろうとする声は聞かれませんでした。午後の分科会で行政の丹沢担当者に《潜在自然植生》に沿った植樹プランの有無を質問してみると、世間にはそういう考えも存在するようだという認識で、まったく相手にされていないことがわかりました。このことは備忘録《丹沢の課題と解決策を聞きにいく》にその詳細を報告しています。

この残念な状況は、丹沢の再生とは放置された人工林や里山の管理を続けることにあり、これが任務であると考えるのが主流になっていることに原因があるようです。かつて国の政策に沿って民間林のほとんどがスギやヒノキを植林し、ようやく成木となって出荷する頃には海外からの輸入木材との価格競争に破れ、伐採することもできずに管理放棄されたままに置かれている現状をまず、何とかしようという切迫した現実があるからだと思われます。従って丹沢の再生は、間伐や荒廃し土壌流出がひどくなった林床の回復に主力が注がれ、その他にもブナ林の衰退、シカの食害など課題は山積みの状況で、とても宮脇さんの《潜在自然植生》の理論と実践による常緑広葉樹を主木とする多層群落の天然林を作る!などという美しい発想を思い浮かべることができないようです。

東日本大震災でも、マツなどの針葉樹林と較べ、津波や火災などの災害に圧倒的な優位性を示した常緑広葉樹の林を環境保全・防災林として全国に作ることを進めている宮脇さんのことが丹沢ではほとんど話題にならないのは、丹沢が都市や生活空間という人間の営みとは離れた場所だからでしょうか。

そこで、改めて《潜在自然植生》の森をまったくご存じない人にも簡潔にPRするために、A4用紙1枚にマトメてみると、どういう内容になるのかにトライしてみようと思います。もっとも宮脇さんの著書を一冊でも読んでいただくと読者は間違いなく、そこにある自然性&普遍性を獲得できるのですが。

宮脇本

写真は左から『森よ生き返れ』(大日本図書 1997)/『あすを植える』(毎日新聞社 2004)/『いのちの森を生む』(NHK出版 2006)/『木を植えよ!』(新潮選書 2006)/『鎮守の森』(新潮文庫 2007)/『森の力 植物生態学者の理論と実践』(講談社現代新書 2013)。私が眼を通したこれらの6册以外にも宮脇さんの著作は専門的な学術書をはじめとして多数にのぼるが、私にはこの6册の本に書かれている思想とその実際を自分のものとすることさえ、未だに道半ばの状態なのである。私の怠惰がゴールを遠い所に運んでしまったようだ。

まずは《潜在自然植生》の概念・特長・メリットを思いつくまま並べてみる

  1. 昔からあるその土地本来の樹木のことを《潜在自然植生》といい、《潜在自然植生》の森は高木層+亜高木層+低木層+草本層からなる多層群落を構成している。
  2. 《潜在自然植生》の森とはヒトの手によって管理される人工林や里山の雑木林と対立する概念だから、自然林または天然の森ということができる。
  3. 関東以西の《潜在自然植生》の森は深根性・直根性に優れた常緑広葉樹を主木(高木)とするため、豪雨や地震による表土流出などの災害を防止する機能を持ち、加えてこの多層群落の森は人工林にはない生物多様性に満ちた豊かな環境を作り上げる。
  4. 《潜在自然植生》の森は、全国至る所で鎮守の森と呼ばれた昔の神社林に見ることができたが、今ではヒトの管理から逃れた鎮守の森は、わずかを残してほとんどその姿を消している
  5. そこで実際の《潜在自然植生》の森の姿をイメージするには明治神宮に出かけてみるのがいい。神宮の森は造園からずっと人の手を極力排除し、樹木の成長を自然のプロセスに任せて100年を経過した今日、常緑広葉樹を主木とした多層群落の豊かな森が出現している。
  6. この《潜在自然植生》に基づく自然の森、天然の森を復活させようと全国で植樹活動を実践しているのが宮脇昭さんである。すでに国内1,300カ所、海外を含めると1,500箇所以上で《潜在自然植生》の防災・環境保全林を手がけ、大きな成果をあげている。
  7. 《潜在自然植生》に基づく宮脇昭さんが提唱する植樹の特長は《混植・密植》にあり、その土地本来の高木+亜高木+低木+草本からなる十数種類の多層群落の幼木を一度に高密度の配置で植えるという手法を採用している。
  8. 《混植・密植》により植えられた《潜在自然植生》の樹木は植樹から3〜4年以降はヒトの管理が不要となる。あとは自然淘汰にまかせると、主木(高木)は10年で10m、20年で20mの割合で成長する。
  9. その後、常緑広葉樹は数百年以上の命を維持すると言われており、《潜在自然植生》の多層群落の森は神宮の森と同じように、生物多様性に満ちた豊かな自然環境を形作ることになる。

次にA4サイズに収まるように9項目をまとめてみる

はじめに《潜在自然植生》という専門用語を一般的な表現に置き換えてみます。宮脇さんは著作の中で《潜在自然植生》の森のことを「・・・本来の自然の森」とか「自然の森に限りなく近い」、「自然の森のなごり」などとその時々での表現は少し違いますが、一貫して使われているのは「自然の森」という言葉です。

私は「人工林」との比較において、より鮮明に対立する概念としての《潜在自然植生》の森を表現しようとすると、「天然の森」のほうがインパクトが強いような思いがして《潜在自然植生》の森のことを一般の人に説明する言葉として《天然の森》を使用することにしました。

「自然」か「天然」か。この二つの単語にはあまり差異はなく、例えばサントリーが「南アルプス自然水」ではなく「南アルプス天然水」と商品名にどっちかといえば「天然」を採用したこととそんなに違いはない。

次に、上記の9項目は《潜在自然植生》の定義からはじまって、分析→特長→メリットと落とし込んでいるのですが、A4サイズに納めるために、定義を一言に(実際には2.5行になってしまったのですが)まとめ、続いて《潜在自然植生》の森の特長&メリットを5項目にまとめてみました。

はたして、一般の人に《潜在自然植生》の森の核心が伝わるペーパーになっているでしょうか。

天然の森

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