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潜在自然植生が育つ10年の森を観る

三浦半島のちょうど中頃にある湘南国際村(神奈川県横須賀市)の《めぐりの森》については、この備忘録で何度も話題にして来ましたが、今回はこの地で毎年少しづつ苗木を十年間にわたって植え続けることで、潜在自然植生=常緑広葉樹の《ふるさとの森》づくりにチャレンジしている、これもたびたび登場していただいているnpo法人国際ふるさとの森づくり協会(renafo)が主催する《10年の森を観る》ツアーに参加して来ました。忘れてしまわないうちに、その簡単な報告を試みてみたいと思います。

10年間で48,940本の潜在自然植生の苗木を16,310㎡に植え続け《ふるさとの森》に

湘南国際村《めぐりの森》は、さまざまな組織や団体が植樹活動に参加する植栽地になっており、renafoもその一つとして植樹・育樹事業に参加して来ました。そこでこの10年間にrenafoが2009年以降植樹したa〜dの4つの区域をgoogle map上に落とし込んでみると、以下のようになります。

今回の《10年の森を観る》ツアーはrenafoの去年2017年の植栽地であるd→c→b→a地区の順序で時間を巻き戻すように観察して廻りました。1年前に植えた、まだ苗木の様子を見せているホヤホヤのミドリからツアーは始まり、年を追うごとに成長する樹木群を順番に見て回ると、少しずつ森の基本的なカタチを私たちに表してくれるようになります。

そして最後に10年前の2009年に植樹したという、道路に接する斜面に展開する樹林区域 a は、人工林や雑木林には不可欠となる除草や間伐などのヒトの手をまったく煩わせることなく、自然のままに順調な生育を見せて、今まさに常緑広葉樹の森へとその姿を表そうとしています。林内に分け入ると、混植・密植という宮脇方式ならではの手法で植えたために、お互いが競うように、樹冠はひたすら陽光を求めるように高く高くそびえ立ち、密集した木の幹は鬱蒼とした景観を形作っています。

そして何よりも、光が届くことが少ないために、林床には雑草などもほとんど見られず、10年の時間を物語るように、常緑の落ち葉が褐色に変色し地面を覆い、これらの落ち葉や枯れ枝はこれから土中の虫や微生物により分解されて無機物にもどり、再び樹木の成長に寄与する準備をしているかのように思えました。

↑植樹から10年が経った樹林の景観。歩道に覆い被さるようにひときわ勢いよく高く聳えるのは、植樹時には先駆種としてすでに存在した落葉広葉樹。renafoはこれらの樹種をあえて伐採することなくなるべく残し、常緑樹とお互いに競い合いながら育てることを選んだそうです。今はまだ先輩格である落葉樹にも勢いがありそうですが、明治神宮の森でも実証されたように、そのうち落葉樹は常緑樹との競争で淘汰され、森は自然と潜在自然植生=常緑広葉樹を主体とする《ふるさとの森》へと遷移するようです。

植樹から3-4年で、人工林や雑木林には欠かせない下草刈り、枝打ち、間伐などの管理は不要。ヒトの手をかけずに、自然が森を育んでくれます。

↑この樹林を今度は道路から反対側の上に回り、見下ろすようにして斜面になった林内に分入って撮ったもの。驚くべきことに、冒頭でも少し触れましたが、人工林や雑木林の保全には欠くことのできない除草や枝打ち、間伐などの作業を一切放棄して久しいにもかかわらず、林床には雑草を一本も発見することができません。そこは枯葉や枯れ枝で覆われているだけで、ツル植物やカズラの類をはじめとする林縁植物はこの常緑広葉樹の林内には侵入できていないことがわかります。この日は朝から快晴が続き、常緑広葉樹の林内は薄暗いとはいえ、写真のように陽光は樹冠を通してマダラ模様に差し込んでいる様子がわかりますが、それでも、このような環境下では林縁植物は入ってくることができないようです。このへんを少し詳しく宮脇昭さんの著作から見てみましょう。

通常、土地本来の樹木が草原、水際、道路などの解放景観に接したところでは、ツル植物や半分日陰、半分日向で育つ林縁性のウツギ、ヤマザンショウ、ニワトコ、ヌルデ、ムラサキシキブ、ツルウメモドキ、ヘクソカズラなどが周りを囲んでいる。これらはいわば自然の森の番兵として、森林内へ急に光や風が入って林床が乾いたりして森が破壊されないように森の保護組織として機能している。ところが、土地に自生していない、客員樹種と呼ばれるスギ、ヒノキ、カラマツを植林した場合や、定期的な伐採によって持続してきた二次林としてのコナラ、クヌギ、ヤマザクラ、エゴノキの雑木林では、下草刈り、枝打ち、間伐などの管理をしなくなった途端に、これらの林縁植物が下克上を起こして、森の中に入り、ヤブ状、いわゆるジャングル状の混乱状態を形成する。(宮脇昭著《鎮守の森》p58  新潮文庫  2013年)

植樹から3-4年間だけ2〜3回/1年の雑草駆除に汗を流すと、あとは自然任せ。

上の林床写真のように、その土地本来の植生(ここでは常緑広葉樹)を高木から低木まで十数種類の樹種のポット苗を混植・密植することで、ヒトの手をかけていないにもかかわらず、10年後の様子は管理不足の人工林や雑木林とは大違いのようです。

が、この景観を作るためには上の写真のように、植樹から一般的に3年間は年に2〜3回の割合で除草作業が必須となります。写真は《10年の森を観る》ツアー当日、参加者全員で去年の植樹地(区域d)の雑草取りの作業風景。この時期は苗木よりも雑草の背丈が高く、勢いがあり、苗木に陽光がより届くようにヒトの手による除草管理がどうしても不可欠になるわけです。

そして、下の写真↓はすでに雑草取りを済ませていた植樹後2年の植栽地(区域d)。これが10年後には、早くも森の原型を見せてくれるようになります。

次に、下の写真↓は植樹後5年程が経過した植栽地(区域d)を通るツアーの一行。この頃になると写真でもわかるように、林縁性の雑草はこの常緑広葉樹の群落周辺を囲むだけで、林内に入り込むことはできないようです。植樹時には20〜30cmに過ぎなかった苗木もこの頃になると、人の手を借りずとも混植・密植の効果も加わって競い合うように太陽の光を求めてのびており、人の背丈をはるかに越してしまっています。

これまで国際ふるさとの森づくり協会(renafo)が10年間にわたって続けてきた湘南国際村での植樹活動はこれを区切りに一旦はこの地を離れるようですが、今回の《10年の森を観る》ツアーを巡ってみての感想を一言で表すと、これは全国でも例がない宮脇方式の《潜在自然植生》の生きたショールームというのが的を得ているように思われました。できるだけ、多くの方に観ていただきたい植生の宝庫です。

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