前回の《大山地域で植樹事業を試みる》では、この地域の任意の場所で東京ドームと同等の面積(約4.7ha)に潜在自然植生の森を再生するとなると、最初にどんな課題に遭遇するのかを、ランダムに並べてみました。そこでわかった二つのことを以下にまとめてみます。
- 東京ドームの面積(約4.7ha)に植樹するには、高木・亜高木・低木合わせて12種類の幼苗が(2種類の高木)1万本+(その他)6万本=7万本必要になる。
- この7万本の植樹に必要な作業量は、1人が30㎡/1日の面積を担当可能と仮定して、5名/1チームで300日を要する。
次に、大山地域の自然植生について整理してみます。
《丹沢の植生は30タイプ》の4回シリーズで引用資料として利用させていただいた丹沢大山総合調査学術報告書によると、主に以下の3種類の自然植生が部分的に分布しており、この中から優先度の高い植生を一つ選びたいと思います。
- 高標高域のブナを主体とする夏緑広葉樹林
- 中標高域のアカガシ、ウラジロガシを優占林とする常緑広葉樹林
- 上記の中間域に存在するモミ、ツガを優占林とする常緑針葉樹林
これら3種類の植生のうち、1)高標高域のブナ林の再生・植樹は、問題が複雑に絡み合っていることもあり、残念ながら後に回すことにします。また、3)常緑針葉樹林は、ヤブツバキクラス域上限とブナクラス域下部の中間域に分布するものですが、分類的には《サカキ—ウラジロガシ群集》に属しているため、大山地域の標高300〜800m域に分布する2)の《サカキ—ウラジロガシ群集》の植樹から始めるのが順当と思われます。植樹の作業効率から言っても、いきなり高標高からよりも、低〜中標高でスタートするのがより正しそうです。
また、東丹沢に多く見られる夏緑広葉樹のクリ—コナラ群集は《自然環境保全基礎調査 植生調査 2次メッシュ情報》の大山地域植生地図に記載されているクリ—ミズナラ群集およびアカシデ—イヌシデ群集と同じように《サカキ—ウラジロガシ群集》の二次林であることから、この植生から始めるべきでしょう。
そこで《サカキ—ウラジロガシ群集》の東丹沢の多層群落構成を見てみます。
- 高木 :ウラジロガシ、アカガシ、アラカシ
- 亜高木:シキミ、ヒイラギ、ヤブツバキ
- 低木 :アセビ、テイカカズラ、サカキ
- 草本 :ヤマイタチシダ
それでは、これらのポット苗を育てるために樹木の特性を一つ一つ見ていくことにしましょう。