人工林から潜在自然植生の森へ

丹沢山塊の麓にあり、りっぱな自然植生を持っている5つの社寺林のことを調べてみると、特に標高800m以下の丹沢山塊に残存するヤブツバキクラスの《ヤブコウジ—スダジイ群集》などの常緑広葉樹林が社寺内ではしっかりと分布・保存されているのがわかります。これに対して、本家本元の丹沢の山々では、自然植生の樹林は限られた所のごく一部に残存するだけで、他はスギ・ヒノキなどの人工林やかつてヒトの手が加えられた二次林の末裔というべき森林が多くを占めていると現状がだんだんとわかってきました。

なるほど、宮脇昭さんがたびたび著作の中で強調するように、今日では潜在自然植生の樹種を見つけるためには、近くに残る鎮守の森に行って確かめてみるのが一番のようですし、この鎮守の森をいつまでも保存する社会を作って行かなくてはなりません。

そこで問題は、これら人工林の多くの林床が深刻な状況にあることです。特に人工林内では低木層・草本層は退行し、土壌の流出に歯止めがかからないなど、人工林所有者の管理放棄(とは言っても、国の林業政策の大失敗のツケをそのまま彼等は背負わされているのです)がこのような結果をもたらしています。確かに1960年代の高度経済成長期には建築用木材としての需要の高まりに対応し、全国で始まった植林事業だったのですが、その状況が一変してしまった今日では、多くの森で人工林所有者の管理放棄による森林の崩壊が今後ますます深刻度が増してくるようです。丹沢も例外ではなく、暗い人工林の内部は草も灌木も生育せず生物多様性は失われ、その結果表土の流出が続き、雨が降るたびに泥水は渓流を埋めてしまい、動植物を問わず、生態系全体が壊されるだけでなく、災害の原因なっている、と多くの報告が異口同音に示すところです。

この問題の解決策の一つは、人工林を潜在自然植生の森へと転換していくことですが、宮脇昭さんは著書のなかで「放置された針葉樹は伐採したら、そのまま斜面に沿って一本丸ごと置いたままにしておくといい。表土の流出防止に役立つであろうし、そのうち土に戻ってくれます」みたいなことを書かれています。実際に潜在自然植生の森を再生するために、そういう試みを実際に行っている所はないのでしょうか。その前に、スギやヒノキを伐採する費用はどのくらいなのでしょう。

(この項未完につき、このまま《針葉樹の伐採後は潜在自然植生を植える》に続きます。)
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