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森の再生1)潜在自然植生調査2/3

前回の《森の再生1)潜在自然植生調査1/2》に続いて、私の忘備録の中から丹沢の植生についての記述をピックアップし、それらを一つにまとめてしまおうと言うシリーズの二回目の今日は現在も自然植生が残っていると言われる神奈川県下の寺社林=鎮守の森に伝わる多層群落について紹介したシリーズ《神奈川に残る鎮守の森》から、特に丹沢地域にある5つの鎮守の森のことを取り上げた《4/5》と《5/5》について整理してみることにします。

これも(今となってはその出典元がはっきりしないのですが)鎮守の森としての形態を現在に及ぶまでなんとか保存してきた神奈川県下の140の寺社について、その一つ一つを記述する129ページにもなる重いボリュームのpdf資料を元にしています。おそらくこのpdfは、宮脇さんが彼の著作『鎮守の森』(新潮文庫 2007年)でもこれらの調査について次のように触れていることから、チーム宮脇による貴重なコンテンツのように思われます。

鎮守の森今、その土地本来のふるさとの木によるふるさとの森、鎮守の森がどのくらい残っているか。私の住んでいる神奈川県は、全国のわずか百五〇分の一ほどの狭い県土に人工は八八〇万人を突破している(二〇〇七年一月現在)。横浜市はおよそ三六〇万人(二〇〇六年九月現在)。人間が増えることがその県や市の発展だとすれば、東京に次いで発展していることになる。しかしそれと反比例するように鎮守の森は激減している。私たちが神奈川県教育委員会の依頼で一九七〇年代に現地調査した結果では、すでに高木、亜高木、低木、下草がそろった、すなわち最低限の森の生態系が維持されているような鎮守の森は、たった四〇であった。かつては二八五〇あった鎮守の森が、戦後わずか三〇年たらずで激減したのである。(『鎮守の森』新潮文庫版 p19-20下線は引用者

今から30年以上も昔の1970年代の調査でも神奈川県下の寺社のうち、高木—亜高木—低木—下草という最低限の多層群落が揃っている鎮守の森はわずか40に激減。丹沢地域に限ってみると5つしか残ってなかったのですが、それらの寺社名と場所を下図に示します。

5shrines
◎松石(しょうせき)寺

厚木市上萩野(標高:145m)
残存面積、樹冠の密度、樹高など県下でも有数のスダジイ林で。20mに達するスダジイの下層として、亜高木層以下にアラカシ、ウラジロガシといった常緑のカシ類やマユミ、シキミ、ツルグミ、モチノキ、ヒイラギ、クスノキ、ベニシダ、ジャノヒゲ、テイカカズラ、ヤブコウジ、ビナンカズラなどヤブツバキク ラスの種も多数生育と、あります。

◎日向薬師

伊勢原市日向1644(標高:220m)
スダジイ、モミ、ウラジロガシ、イロハモミジ、タブノキ、ケヤキなど自然植生の構成種とスギの植栽樹種が多数生育。参道脇に残存するスダジイ林、薬師堂裏手のウラジロガシ—モミ林、ケヤキ、タブノキ、モミの高木の残存など各種植生単位が立地条件の差異に応じ てみられ(スダジイ林のみの評価はBだが)その他の植生が多彩に生育している数少ない社寺林、とあります。

◎大山寺

伊勢原市大山(標高:520m)
高木層にケヤキ、アラカシ、ウラジロガシなどが飼育し、低木層にはアオキが高い被度で繁茂している特長を持つアラカシ—ウラジロガシ群落とされるケヤキ林が分布。また、大山は雷山のモミ原生林がすでに県の天然記念物に指定されていますが、大山寺にもシキミ—モミ群集が生育、海抜520mあたりにあって県内でも最も低海抜地に生育する群落だそうです。

◎八菅神社

愛甲郡愛川町八菅山(標高:100〜170m)
200段を越す階段をなす参道周囲は樹高が15m以上のスダジイ林(ヤブコウジ—スダジイ群集)が10,000㎡以上もまとまって残存生育しており、高木層は台地上でアカシデ、ヤマモミジ、ハリギリを交え、スダジイが優占する林分となっています。亜高木層以下はヒサカキ、サカキ、アラカシ、ツルグミ、ク ロガネモチ、アオキ、ビナンカズラ、ベニシダ、イタチシダなどヤブツバキクラスの種(常緑の自然植生の構成種)が比較的多く生育するのが特徴とされています。

◎八幡神社

愛甲郡清川村煤ヶ谷(標高:200m)
高木層に優占するモミ、スダジイの他に、亜高木層、低木層、および草本層に自然植生の構成種を多くみることができるスダジイ—モミ林を見ることができます。常緑植物 (ヤブツバキクラスの種)のナンテン、クスノキ、アオキ、シロダモ、アラカシ、ヒサカキ、テイカカズラ、ヤブコウジ、ジャノヒゲと夏緑植物のガマズミ、ハ ナイカダ、ムラサキシキブ、コマユミ、ヤマモミジ、クロモジ、コバノガマズミが生育するのが特長。この夏緑植物の多くは、自然植生の置きかえ群落として生育するコ ナラの二次林(クヌギ—コナラ群集他)の構成種であり、より高海抜地に生育するミズナラ林の構成種でもあるそうです。

◎八幡神社の多層群落植生図
八幡神社植生

1.テイカカズラ
2.ハナイカダ
3.アラカシ
4.ヤマモミジ
5.ホオノキ
6.クロモジ
7.スダジイ
8.ケヤキ
9.アオキ
10.ヤマウコギ  11.ガマズミ  12.ナンテン  13.モミ  14.クサギ   15.ヤブコウジ

(以上、イラストおよびそのキャプションはpdf資料同上p151より転載)
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