ポット苗から育てる森、百年後の姿3

前回の《ポット苗から育てる森、百年後の姿2》に引き続き、神宮の森と宮脇式植樹法による森との作り方の比較を進めます。前回は「宮脇方式による植樹から10年後、20〜30年後そして50年後の途中の植栽の様子を確認したくなります」という文章で終わっているので、さっそく宮脇方式の植樹法による樹木の成長の様子を実際の事例を見ながら確認してみることにしましょう。

宮脇式植樹法と樹木の成長プロセス

あすを植えるここでは宮脇さんの著作の中から『あすを植える』(毎日新聞社 2004年)を参考にしながら、まず樹高の成長の過程についての記述を抜き出してみることにします。

神宮の森が全国から寄進された針葉樹や広葉樹のさまざまな樹種の幼木を公園のなかまで敷設された貨車で運び込み、その一本一本を植えることからスタートし、従って植栽当初から樹高は5m〜10mほどに達していたものも(当時の写真を見る限りでは)多数見られるのに対して、宮脇方式の植樹法は最初から神宮の森とはまったく異なる過程を踏むことになります。

これまでに当備忘録でも何度か紹介させていただいたように、その土地本来の樹種としての潜在自然植生(関東以南の平野部では常緑広葉樹など)のドングリを採集することから始めるため、その前段階の調査を含め、下記図のように幾つかのプロセスと数年の時間が必要になります。

宮脇式フロー

このように宮脇方式では(2)種子収集から数えても、(3)播種→(4)ポット苗育成のあと幼苗の(5)植樹の段階になるまで、3〜4年ほどの時間が必要になることがわかります。更に植樹時のポット苗の樹高は30〜50cm程度と、神宮の森の5〜10mに較べると、その差は歴然としています。

では、宮脇方式の植樹で5〜10mの樹高に成長するにはどのくらいの時間が必要なのでしょうか。宮脇さんの著作『あすを植える』(毎日新聞社 2004年)の中からその答えを見つけてみます。

宮脇式植樹法による森の育成は、斜面の方が好ましい

この本の中で宮脇さんが「3年で・・根群が3メートル、地上部も3メートル」と記述されている具体的な事例があります。ここで注目したいのはこの事例が平地ではなく、ちょうど丹沢山系の場合と同じように斜面を利用した植樹について語っていることです。丹沢で森を作ろうとするものにとって、大いに参考になりそうなので、少し長くなりますが以下に引用させていただきます。

 雨の多い日本では土地本来の多層群落の森林を形成するためにはむしろ斜面の方が好ましい。平地は水が溜まって根群の生育が悪く、十分生育しない場合もある。我々の現地調査の結果では斜面角度45度以下は全て見事な森林が確実に形成されている。すなわち現地植生調査の結果を基本として土地の潜在自然植生を科学的なシナリオとすると、例えば照葉樹林帯では海岸沿いにはタブノキ、尾根筋にはシイ、内陸ではシラカシ、アラカシ、ウラジロガシ、アカガシ、中部以西ではイチイガシさらには奄美諸島や沖縄県ではオキナワウラジロガシ、アマミアラカシなど土地本来の森の主役を中心にできるだけ多くの森構成樹種の幼苗を混植、密植する。

 植物は根で勝負する。本来の樹種は深根性、直根性で裸苗での移植が難しい。そのため我々は根群の充満したポット苗を使用することを勧めている。しかも根は土で勝負する。斜面には切り土と盛り土がある。盛り土の場合にはできるだけほっこらと盛って踏み固めて根群が酸素欠乏に陥らず、排水がよくなるように対応する。切り土の場合には基本的には斜面に平行に犬走り状にV字に斜面を掘り、そこに、上から表土を落としていく。表土とは本来そこにあった落ち葉もした草も低木も伐採した枯れ枝も地球資源であれ、独と分解不可能なもの以外はすべて混ぜてほっこらと盛っていく。できれば間伐材などで3メートルおきくらいに場所によって異なるが土留めを作っておけばベターである。

 そこに2、3年生の来ん群が充満した土地本来(潜在自然植生)の主木を中心にさらに三役、五役とも言われる照葉樹林帯であれば、亜高木層を形成するヤブツバキ、モチノキ、シロダモ、ネズミモチなどを混植する。可能なかぎり藁でマルティングをして縄で抑える。このような斜面保全林全体のポット苗植栽は斜面に直角に敷きつめた稲わらでしっかり留めておくと一時に200ミリ、300ミリの豪雨でも斜面が崩れない。また40日雨が降らなくても、水を与える必要がない。そして雑草が出にくい。寒さにも強い。分解したら肥料分としてさらに苗の生育を助ける。植栽後の管理は2、3年は雑草が生えたら抜いて捨てないで、敷き藁の追加材料にする。今まで国内1200カ所、海外の災害防止、生態環境斜面保全林再生の場合も3年ないし4年たてば樹陰が林床を覆うので雑草はほとんど出ない。したがって3年目からは管理費をかけない。自然淘汰によって樹種の能力に応じて、まず根群が私たちの測定結果では、2年で2メートル、3年で横須賀三浦層群の45度近い切り土岩盤の隙間を通してでも根群が3メートル、地上部も3メートル、そして5年、10年たつとすでに土地本来の斜面林生態系が確実に回復してくる。鉄やセメントと違って生きた木の根は劣化しない。時間とともに、確実に降る綿を縄でくくるような状態での斜面保全に役立つ。当然生きた構築材料は寿命がある。50年、100年、200年で枯れていく木もある。しかし、強固で健全な会社システムと同様に、その高木の下には次の世代を担う木々が待ちあぐんでいる。したがって個体は交代しても斜面保全機能を果たす森のシステムはよほどの天変地異がないかぎり、いつまでも続いていくはずである。

『あすを植える』p25-26(宮脇昭+毎日新聞「あしたの森」取材班著 毎日新聞社刊 2004年)

少し長くなりましたが、この文章には宮脇方式のエッセンスが凝縮されたカタチで述べられており、加えて丹沢のような斜面が続く山間部に常緑広葉樹の森を最初から作ることの優位性を中心課題として据えられている、貴重な資料と思われます。詳しくは本書をお読みになることをおススメします。

ところで、上記の引用文では「3年で3メートル」というところで止まっていますが、本書ではこれ以外にも樹木の生育と樹高の関係について触れているページがあるので、関連する個所だけを写してみます。

・・・土地本来の森の主役のシイ、タブ、カシ類などの幼木を中心にできるだけ多くの種類を昆植、密植しました。落ち葉のかわりに稲藁を敷きました。このような方法でありますと、10年たてば8メートル、今15 年たって14メートルの森になっています。(同書p15)

これは上田市・・・の例です。斜面に土地本来の主役の幼木を・・・植えました。なんと上田市のような比較的厳しい環境で45度の傾斜でも5年で4メートル、15年で10メートルの立派な森ができました。(同書p17)

(平地では通常)ポット苗を植えていれば10年で10メートル近い森ができています。(同書p19)

宮脇さんが1975 年(横浜市の横浜国立大学キャンパス)に植えた樹高30〜50cmのポット苗は、シラカシ、タブノキなどで(28年後の2003年には)高さ20メートル以上に育った(同書p148写真キャプションより)

以上のように、植栽の立地条件や環境の違いにより幅がありますが、宮脇方式では一般には5年で5メートル、10年で10メートル、20〜30年たつと20メートル以上になるようです。主木がこの高さまで育つと高木—亜高木—低木—草本の多層群落もしっかりと構成され、人の手を離れてもそれ自体で完結する森の円環のプロセスに入ることになります。そして百年後には限りなく自然に近い極相林として持続する過程につながっていくに違いありません。

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