前回に続いて神奈川県が作成配布しているパンプレット「神奈川県の森林・林業」を参考にしながら、県の森林事業の概要紹介です。二回目の今日は標高によって異なってくる取り組みから調べてみましょう。
標高別各ゾーンの具体策
山や森の高さ別に1)800m以上の奥山、2)300〜800mの山地、3)300m以下の里山の3ゾーンに分けて、それぞれのゾーンでの県の森林再生事業の具体策が提示されています。
1)800m以上の奥山:ブナ林など自然林を再生するゾーン
ブナやモミなど高標高域を象徴する多様な樹種と階層を持った自然林の再生と保全。
後継樹の育成と林床植生の再生
植生保護柵の設置や後継樹の植栽 / 表土が流出している林地への土壌保全柵の設置。箱根地域の自然景観の保全
広葉樹の植栽により人工林から広葉樹林への樹種転換。
この備忘録を始めてすぐ《丹沢の病い》という10回シリーズを、神奈川県のウェブサイトで見つけた「丹沢大山総合調査学術報告書(2007年)」のレポートの一部を書き写すことで、備忘したことがあります。
上の表が10の問題点を一覧にしたものですが、800m以上の奥山に見られるブナ林の立ち枯れが最初に挙げられているように、ブナ林の衰退はこの調査報告書でも最も大きな問題の一つとなっています。しかもその原因が大気汚染という地球規模の環境問題から、鹿の食害・林床植生の退行など複雑に重層化しているようで、私のような単純素朴な森の再生論ではとても太刀打ちできない大きな困難を感じた経験をしたことを思い出します。なので、標高800m以上の山地の問題は環境や植生の各分野の専門家が協力しあって取り組むべき課題としておきたいと思います。
次は山地の中腹から麓までの、3ゾーン中で最も広い面積を占める標高300〜800mを対象とした施策を見てみます。
2-1)300〜800mの山地:多様な生き物が共存するゾーン
多様な生き物が生息する針葉樹林が混生する広葉樹林。
人工林への広葉樹の導入
間伐などにより広葉樹を導入し、混交林や巨木林へ誘導。渓畔林の再生
植生保護柵を設置し、自然力や植栽により渓岸侵食に強い水辺域固有の広葉樹を誘導。二次林から多様な樹種の自然林への転換
林内に陽光を入れ、植生保護柵を設置し、自然力を生かしながら多様な樹種の広葉樹を誘導。2-2)300〜800mの山地:木材資源を循環利用するゾーン
資源循環を取り戻した持続可能な人工林。
人工林の適切な資源循環
・効率的な搬出が可能な列状・群状の間伐の推進。
・間伐跡地等に植栽し、伐って植えて育てる資源循環による適切な森林整備の推進。
・植栽するスギ、ヒノキの苗木には花粉のでない樹種を使用。
・雄花着花量の多い針葉樹を重点的に間伐をし、無花粉の人工林へ転換。
このように、山の中腹域を主な対象とする施策は、《生物多様性に満ちた豊かな森林の再生事業》と《人工林の維持管理事業》という2つの分野に分れています。前者の場合はいかにして効果的に持続する混交林や広葉樹林を作り上げるのかが課題ですが、ここは、前回と同じことの繰り返しになりますが、宮脇さんの提唱する植樹法がオススメというのが私の結論です。
そして後者の《人工林の維持管理事業》。これは対象となるそのほとんどが民有林であり、その中でも特に適切な管理ができなくなった管理放棄林だと思われますが、上記の4施策のために毎年どのくらいの金額を必要としているのでしょうか。また、これらの施策により伐採された木材はビジネスとしてペイされているのでしょうか。さらに人工林には伐採→植林→下草刈り→枝打ち→間伐→除伐などの一連の管理コストが必ずつきものです。将来にわたってこれらの費用を確保可能な道筋は付いているのでしょうか。50年構想にふさわしい予算に裏付けられた長期的なプランなどの詳細な情報収集が必要です。
このほか、パンフレットには《成長の森》という半ば独立した施策が載っています。大変興味をそそる内容なので、これも転記しておきます。
2-3)300〜800mの山地:成長の森
赤ちゃんの生まれた家族に参加を呼びかけ、その参加費で、
県管理の森林にクヌギ、カツラなどの広葉樹や無花粉スギなどの苗木を植栽
赤ちゃんの名前を記入した銘板を設置。
「虫が集まる樹」としても有名な落葉広葉樹のクヌギの樹は子供たちにも関心を持ってもらえそうな、興味深い樹としてグッドアイデアだと思われます。成長すると、カツラの黄色とクヌギの紅葉、それに深い緑の針葉樹も重なって、秋の季節には鮮やかな風景を彩ってくれそうです。その参加費を是非とも知りたいものです。
◎《成長の森》の詳細を備忘録に加えました→神奈川県の森林再生事業《成長の森》のこと
◎神奈川県の《成長の森》ウェブサイトはコチラからどうぞ。
3)300m以下の里山:身近なみどりを継承し再生するゾーン
1)クヌギ、コナラ、クリなどの森の恵み豊かな落葉広葉樹林 2)四季を通じてうっそうと茂る照葉樹林 3)日が射し込み、風の通る竹林などの3つの種類の里山を再生する施策。
里山の保全、再生および活用
地域合意に向けた支援や活動への支援による里山の保全等。現存する森林の継承
法令の基づいた緑地の指定や買入、協定による森林の保全。竹林の再生
タケノコや竹材の利用を通じた竹林の再生。
近年高い関心を集めるようになった里山について、多くのnpoなどがこの事業に参画するようになりました。今日のように化石燃料や化学肥料がなかった時代、貴重な資源を供給してくれた里山も、その特有の景色や環境を維持するためには、人工林と同様にヒトの手による一年を通した管理が欠かせないと言われています。特に上記の1)や3)は再生のための持続的なプランが必要です。
(続く)