今、日本が抱える人工林と林業の課題、とりわけ神奈川県のこれに対する取り組みについて紹介した前回の忘備録《林道から200mの林業》をアップ後、改めて県のウェブサイトを閲覧してみると、より詳しい情報が公開されていることがわかりました。例えば、以下のようなものです。
● 神奈川地域森林計画書(神奈川森林計画区)計画期間2013-2023年
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そこで今回は忘備録のタイトルにした割には内容が希薄だった前回を補うために《神奈川県森林再生50年構想》をひも解きながら人工林と林業に関する県の施策を見ていきたいと思います。
神奈川県の森林50年後の構成
この図は2006年から数えて50年後の2056年に神奈川県の目指す森林構成を表したものです。森林全体の4割近くを占める人工林はこの図によると、現在は8割ほどが手入れ不足により荒廃していますが、50年後にはその半分を混交林に替え、残りの半分を木材資源を生み出す持続可能な人工林にすることで、人工林全体をそのまま健全な森林に再生することを目指すとしています。
そして、人工林を新たに混交林と従来の人工林に大別するその境界線はどこにあるかというと、この備忘録のタイトルにあるように、林道から200mがその基準になるという訳です。林道に近くスムーズな伐採・集材が可能な区域の人工林は今まで通りのスギ・ヒノキの木材を生産する針葉樹林として、林道から離れた区域は人工林の間伐を行いながら、自然の力を利用して広葉樹林を誘導、針葉樹と広葉樹が混在する混交林や巨木林に育て上げようという訳です。
神奈川県の人工林も林業の不振による手入れ不足のため、2006年頃はその8割が林床に陽光も届かず下草や低木は衰退し、表土の流出まで見られるという劣悪な植生環境に陥っていたと言われています。この状態にある31,800haもの面積を50年の時間をかけて整備し健全な森林に再生するには、間伐・枝打ち・下草刈りそして植栽など多くのマンパワーとコストが必要になってきます。もちろん県民協働の取り組みとしてボランティアグループの活躍が期待されるにしても、この整備事業に投入されるコストが結果的に無駄になってしまうことはないのか、少し心配な所もあります。
持続する人工林は、採算の取れる林業の復活がカギとなる。
神奈川県の森林整備施策の主眼は、まず森林の公益的機能の回復にあります。県の施策のおかげで、手入れ不足で荒廃した人工林を間伐・枝打ちなどの管理により健全な森林に再生し、商品価値のあるスギ・ヒノキを育てることが結果的にできたとしても、それがそのまま持続する人工林を実現するわけではありません。商品としてのスギやヒノキの木材が採算が取れる価格で販売され、持続する林業としても成立することが前提になります。が、そこには前回の備忘録で(特に日経ビジネスオンラインの記事でも指摘されたように)林業再生のハードルとして取り上げた3つの課題が待っています。この困難な課題をどうやって解決するのか、地方自治体にとって実に悩ましい問題です。
第一の課題は、林業再生に成功した先進国と同レベルの生産性を獲得すること。
例えばドイツと比べてみても、日本林業の木材生産性は最大1/20の格差があると言われています。生産性向上のカギは伐採・集材・運搬という一連の作業の機械化・it化そして作業プロセスの効率化にあると指摘されています。言うまでもなく、この課題は全国的な規模と実行性が担保される組織で、それこそ10〜20年をかけて実行に移すようなレベルのようです。
この備忘録の冒頭で紹介した《神奈川地域森林計画書》でも林業機械の導入についてはわずか数行の簡単な記述で終わっていることからも、機械化・it化の問題は県レベルでは収まりがつかないことを示唆しています。
(5)林業機械の導入に関する事項
本県は、地形が急峻で小規模・分散的な間伐施業が中心であることから、従来型の集材機によるジグザグ集材や作業路網を活用した集材技術の向上による効率化を進めるとともに、地域特性に応じ、高性能林業機械と列状間伐などの効率的非皆伐施業を組み合わせた作業システムの導入を推進し、生産性の向上によるコストの低減と労働強度の軽減、労働安全性の向上を図る。(同書p50)
第二は、林業再生に欠かせない森林組合の改革。
神奈川県の場合は、森林組合を素材生産事業体、造林事業体とともに、主として県が行う施業等の受託または請負により林業経営を行う林業事業体の一員として位置付けているようで、いわば森林整備事業には欠かせないパートナーみたいなものだと思われます。加えて県の木材需要を掘り起こし、林業の活性化と森林の公益的機能の向上を図るために立ち上げたかながわ森林・林材業活性化協議会のボードメンバーでもあるわけで、この文脈に関する限りでは、森林組合はしっかりした役割を担っているようです。
(この稿未完)