これまで5回にわたって整理する能力を欠如したまま、ダラダラと神奈川県の広葉樹林整備の考え方とその内容を紹介してきました。整備の対象になるのは管理放棄された私有林、それも夏緑(落葉)広葉樹林ですが、ここから見えてくることは、丹沢山地の森はそのほとんどが、スギやヒノキの人工林または化石燃料や化学肥料がなかった時代にヒトの生活の必要からヒトの手によって管理されてきた薪炭林で占められ、とりわけ標高800m以下の地域の《潜在自然植生》である常緑広葉樹の森は、断片的に、わずかしか残されていないことでした。
他方では、森の現場をよく知らない私にとって、興味深い知見も獲得することができました。今までヤブツバキクラス域とかブナクラス域など、純粋培養の植生の理想形だけしか頭にはなかったのですが、実際にはその両方を混生したものが、実際の現場では幾つか見られるという発見です。
例えば《イロハモミジ—ケヤキ群集》。ウラジロガシ、カヤなどのヤブツバキクラスの常緑広葉樹を主体に、ケヤキ、イロハモミジ、エゾエノキ、クマノミズキ、ミズキ、ミヤマハハソなどの夏緑広葉樹が混生した植生とあります。高標高域にある《コカンスゲ-ツガ群集》は、高木層にイヌブナ、 クマシデ、アカシデ、ブナなどの夏緑広葉樹やウラジロガシ、アカガシなどの常緑広葉樹のほか常緑針葉樹のツガ、モミなど多くの樹種が生育しているとされ、複雑な外観を見せています。これらの群集はもともと昔からあったものなのでしょうか。それともヒトの手が加えられたものなのでしょうか。ただ、この二つの植生は、共に急峻な傾斜の谷間や尾根部などにしか残されてなく、ほとんどが人工林や薪炭林に替えられているようです。
1.林相維持・改良
そこで、夏期(落葉)広葉樹林を持続させるには、長期的な(極端に考えるとその森林を持続させる限り)整備が必要になるのですが、これは私たちが《潜在自然植生》の常緑広葉樹林を育てる場合も苗木の植樹から3〜4年間は、同じような手入れが求められ、大変参考になるものです。なので、県のマニュアルから林相を維持・管理するための整備内容を写し取ってみましょう。前回の《受光伐》に続いて《植栽》の整備から。
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前回の備忘録《原始自然保存区ができればいい》に出演した老爺さんが言っているように、雑木林の残存林に宿命的に出現するツルは「放っておくと山はジャングルになる」元凶であるようです。
ツル植物は、本来はマント群落を構成するもので、森や林の周囲を守るような役割を担っています。それが雑木林のように、秋には落葉し林内が明るくなると、林床への侵入を繰り返すようなる困ったものでもあるようです。県の整備マニュアルでもツル植物の種類と処理方法について一覧表で詳しく記述しています。
2.植生保護
丹沢ではシカの食害による林床植生の衰退とこれによる土壌侵食が1990年代に大きな課題となって随分時間が経過しましたが、なかなか問題の解決までにはたどり着いていません。東丹沢の中津川の流域を中心に、掲載の地図で示すように、標高の高い地域にある鳥獣保護区では特に劣化が進んでいます。このため強力な植生保護策の推進が不可欠になりますが、シカの食害に対する県の基本的な考え方を下表に示します。
植生保護柵とは、写真のようなものですが、そしてこの備忘録では省略しますが、柵を設置する細かな規則みたいなものも予め定められています。動物への影響を最小限にとどめ、管理・維持の軽減を図るための様々な工夫や注意点が挙げられています。これらの詳細を知りたい場合は県が作ったpdf資料《水源の森林づくり 広葉樹林整備マニュアル 水源かん養エリア編》をご覧ください。
(続く)