《丹沢の病い》シリーズ第四回目は《丹沢の病い4/10=森林の乾燥化》について。丹沢大山総合調査学術報告書(2007年)には丹沢の森の乾燥化の兆候が、懸垂性植物や高湿環境で生育する植物の顕著な減少として現れていると指摘しています。
上記報告書は、高湿環境を好んで生育するとされるキソチドリとカモメランの絶滅を挙げ、また鮮類のキヨスミイトゴケや地衣類のヨコワサルオガセなどの懸垂性植物の衰退も進んでいることなどから、丹沢の森が乾燥化の傾向にある可能性(という回りくどい表現で)を示唆しています。これらの乾燥化の主な原因として
- 地球温暖化の反映
- 人工林の拡がりによる保水力の低下
- 局地的には林道の建設も影響
の3つをあげていますが、もちろんこれらは相互に関係し、上記以外にも様ざまな原因が複合的に影響して、その結果の一つとして《森林の乾燥化》が深刻になっているということではないでしょうか。
実際に報告書の《第2章生きもの再生調査・第1節植物》は下記の3つのパートでそれぞれを詳細にレポートしているのですが、
- 丹沢大山の植生—シカ影響下の植物群落
- 東・西丹沢の植生比較—丹沢東西モニタリングエリアの植生
- 丹沢のレッドデータ植物群落
これらのページの多くの箇所に《森林の乾燥化》の原因と思われるもの、その影響と思われる事象を見ることができます。具体的には、シカの食害・林床植生の衰退・土壌浸食もそのすべてが《森林の乾燥化》に影響を及ぼしているのであり、お互いに連鎖しながら影響しあっているように思えます。
例えば、そのなかの一つ、シカの食害について。シカの影響が顕著に見られる東丹沢の深刻な病状を次のようにレポートしています。(詳細はコチラ)
東丹沢の、特にブナクラス域のオオモミジガサ—ブナ群集(1,400m〜)やヤマボウシ—ブナ群集(1,000〜1,400m)は林床の本来の草本植物やササ類の急速に失われており、このまま進めば林床での土壌流亡などにより、林床構成種のほとんどが消滅する可能性がある。このことはヤブツバキクラス域(〜800m)でも同様で、サカキ—ウラジロガシ群集や札掛に代表されるモミ、ツガ優先林でも急速に林床の草本植物は失われてきている。さらに林床植物の衰退は裸地化を招いており、堂平のブラ林や札掛のモミ林では、土壌流亡により林冠木の根の「浮き上がり」現象が多数見られる。これに対し、西丹沢エリアではまだシカの影響は相対的には少ないが、林縁や森林の林床にシカの非嗜好性植物が増加しており、シカの影響の増加が懸念される。
(報告書第2章生きもの再生調査・第1節植物・2.東・西丹沢の植生比較—丹沢東西モニタリングエリアの植生 p74)