人工林を照葉樹林に復元する

丹沢の森をビジネスで再生するためには、第一に植樹とその後の管理のための一連の作業、第二番目に植樹のために森の環境を整えておくための作業、この二つに大別されるようです。この考えを「メモ書き」したときの画像を載せたことがあります。
finger植樹事業は丹沢住民の手で
この「メモ書き」を改めて一覧にしてみると、このようになります。

このなかで、2nd stageというのは夢のまた夢の妄想になりそうなので、ひとまず措くとしても、丹沢の森の現状を考えると、直接《植樹》に関わること以上に、植樹に最適な《森の環境を整備する》ためのマンパワー&コストの方が大きいような予感がしてきました。特に、丹沢の森のおよそ半分を占めるといわれる人工林を照葉樹林へと復元する事業にはどんなものが入ってくるのか、ぜひとも知っておきたいものです。

そこで、参考例の一つとしてウェブ上で見つけてきたのが、先日《参考にしたい植樹事例》でも紹介したてるはの森の会《綾の照葉樹林プロジェクト》。さまざまな活動を2008年以来持続して展開されており、その概要は毎年ウェブサイト上でも報告されています。このなかから「人工林を照葉樹林に復元する」という大変興味深い事業について、事業報告書に沿ってその内容を紹介し、丹沢の森をビジネスで再生するための参考にしたいと思います。

ウェブサイトで公開されている報告書はそれぞれがA4一枚の簡単なものですが、2008年から継続的に同じ事業を積み重ねており、丹沢の森をビジネスで保全するという構想を練る者にとって参考になることが多くあるように思われ、分量過多になりそうですが、「人工林を照葉樹林に復元する」事業パートに焦点をあてた部分を以下に転記したいと思います。

綾の照葉樹林プロジェクトの《人工林を照葉樹林に復元する事業とは》

このプロジェクトは九州森林管理局・宮崎県・綾町・(財)日本自然保護協会・てるはの森の会の5者によるもので、「人工林を照葉樹林に復元する」事業主体は森林管理のプロである九州森林管理局が担っています。主な作業として、地面(林床)まで日光がよく届くように、人工林のスギやヒノキを抜き切り《間伐》すること。《間伐》により地面(林床)に照葉樹(カシ、シイ類)の芽が出やすくしたり、既に生育している照葉樹を大きくすることができるとうたっています。ただ、照葉樹(ここでは広葉樹よりも照葉樹という呼称を使用)の苗木を植えることはせず、鳥や風による萌芽の発生を観察し、より効果的な《間伐》の条件を見つけることに主眼を置いています。同時に(針葉樹と広葉樹の)混交林化も試みており、主に森林のセラピー的な(例えば、森林環境教育や保健休養的)利用を促進することを目的としているそうです。

そこで、間伐後の植生調査を行った結果、次のような効果が確認されたと報告しています。

  1. 照葉樹林構成種の実生等の発生が確認された。
  2. 間伐実施に伴う光環境の改善により、照葉樹林構成種の立木密度の増加が確認された。
  3. シカの忌避・不嗜好性種の草本類が増加しており、シカの下層植生への影響が懸念される。

上記の1と2について、プロジェクトが走りはじめて3年を経過した2010年の報告からは、種子供給源、実生発生、林内動態などについてより詳細なレポートを公表しています。

◎これまでの経緯
綾町諸県県有林24林班内の51年生スギ林内に本数率で0,30、50%の間伐試験区を設け調査を行った。林分の概況については、平均樹高17.3~18.4mと上長成長は劣り、地位はⅢ(平成19年度スギ林分収穫予想表)であった。形状比は82~88と高く、樹冠長比は32.6~34.7と中庸で、極端な樹冠の枯上がりはみられなかった。広葉樹の侵入の程度は比較的多く、試験地に隣接する場所に広葉樹が見られた。

◎調査の内容
林内の植生について継続調査を行った結果、木本植物はどの試験区においても種数・本数とも同様の傾向を示し100m2当たり23~24種、136~138本であった。種数の半数がタブノキ、バリバリノキ、アラカシ等の照葉樹林型の高木性樹種であった。照葉樹林型の高木性樹種については、樹高100cm未満のものが本数で約半数を占めた一方、間伐以前から存在したと思われる500cm以上のものが約1割を占めた。当試験地は広葉樹林に隣接し、当初から広葉樹が多く侵入していたため、高木性樹種の侵入・定着が促進されたと考えられる。光環境の指標である開空度は7.5~8.0%となり間伐後3年が経過し間伐率の異なる試験区間で違いは見られなかった。
(綾川流域照葉樹林帯保護・復元計画 (綾の照葉樹林プロジェクト) 平成22年度事業報告書 p13

2011年の《人工林を照葉樹林に復元する事業》報告書には更に多くの観察結果が出てきました。「スギ人工林の混交林への誘導技術に関する研究概要」としてまとめられたレポートを紹介します。(一部2010年と重複・図表は転載を省略しました)

◎これまでの経緯
綾町諸県県有林24林班内の55年生スギ林内に2007年に本数率で0 、30、50% の間伐試験区を設け調査を行った。林分の概況については、平均樹高17.3~18.4mと上長成長は劣り、地位はⅢ(平成19年度スギ林分収穫予想表)であった。広葉樹の侵入の程度は比較的多く、試験地に隣接する場所に広葉樹が見られた。間伐時には、林内に侵入している広葉樹をできる限り伐採しないように施業を行った。

◎調査の内容
林内の植生について継続調査を行った結果、間伐後3年で木本植物の種数本数はどの試験区においても、ほぼ同数で100㎡当たり23~24種、136~138本であった。樹高についても試験区における差はなく、平均で1.62m~1.74mであった。調査区内の木本植物を生活型及び生活形式によって5グループ、

  1. 先駆種
  2. 照葉樹林型高木種
  3. 照葉樹林型低木種
  4. その他高木種
  5. その他低木種

に分けた。この5グループの樹高階分布は、どの試験区でも同様の傾向を示したため、例としてを0%無間伐区の結果を図-1に示す。ほぼ全ての樹高階でタブノキ、バリバリノキ、ヤブニッケイなどの照葉樹林型高木種が多くみられた。照葉樹林型高木種は、0.5m以下の稚樹が最も多かったが、5.0m以上の個体も約10% 存在し亜高木層を形成している。

この試験地では垂直的なの階層構造がみられた。照葉樹林型高木種の0.5m以下の個体が多い理由として、周辺からの種子の供給に加え、間伐時に伐採せずに残した個体も種子の供給源となっていると推察される。ここで、同様に混交林化を目的とした試験(0、30、50%で強度を変えた間伐)を行っている美郷町西郷区の32年生スギ林の間伐後3年の結果を図-2(木本植物の発生が最も多い50%試験区の結果)に示す。この試験区では間伐時の下層植生がほとんど無い状態であった。間伐後3年で219本の個体を確認できたが、全てが0.5m以下で階層構造はみられなかった。また、生活型をみると、先駆種や低木性の樹種が90%以上を占め、混交林化を図る上で不可欠な高木性樹種の侵入は少ない状況であった。

以上より、綾町の試験区では間伐強度による下層植生の状況に差異がなく、間伐の効果は小さかった。ここでは、間伐以前から広葉樹の侵入が多く、スギの下層に亜高木層及び低木層が形成されているため、スギを段階的に間伐(除伐)することで早期の広葉樹林化が可能と考えられる。また、間伐時に侵入している広葉樹を残すことは、種子の供給源として林内の稚樹発生を促すことになるため重要である。しかしながら、美郷町西郷区の試験区のように、下層植生が乏しい林分では間伐による早期の混交林・広葉樹林化は困難である。
複数回間伐を行い、広葉樹の成長及び侵入を促すことや、場合によっては樹下植栽の検討も必要である。スギ人工林で混交林・広葉樹林化を行うには現場条件に合わせた施業が必要である。(綾川流域照葉樹林帯保護・復元計画(綾の照葉樹林プロジェクト)平成23年度事業報告書p12

2012年の報告書では《照葉樹林保護復元の動態モニタリング及びシカ密度実態調査等に関する調査》を見てみましょう。

復元エリアにおいて、間伐の有無及び間伐実施箇所の動態モニタリング、間伐の試行伐採によるシカ被害・実生発生状況及び種子播種による実生発生への影響を調査・分析する。

〈主な調査結果〉
(1)間伐の有無及び間伐実施箇所等における動態モニタリング調査

  • 間伐の実施に伴って実生の数や植物種数は一時的に増加するが、その後減少する傾向が見られた。
  • 光環境が改善しても、種子供給源からの距離が遠ければ実生の数は少なく、種子供給源からの距離が近いほど実生の数も多かった。また、母樹が存在すれば種子が供給され実生も成立していた。
  • 2年前に設置したシカ防護柵の内外では、現時点で実生の本数に大きな差は表れていない。一方、植物種数は増加する傾向が見られ、シカの不嗜好植物であるナチシダが衰退したほか、シカが採食するコガクウツギが下層で増加するなど、種構成のうちシカが関わるものに影響が見られた。
  • プロット№36(種子供給源からの距離20m、平成23年度定性間伐実施)では、高木性の実生が多く(本数密度5,000本/ha)、天然更新が期待される。
  • 実生発生と環境要因との関係をGLMMによって解析した結果、影響を与える要因として傾斜や施業後の経過年数等が統計学的に説明された。

(2)間伐の試行伐採によるシカ被害及び実生発生状況調査

  • いずれの試行伐採プロットも、中心を種子供給源から50m程度に条件を揃えて設定し、アカガシ等のシイ・カシ類実生も確認された。
  • 伐採前の稚樹・実生の状況は、平成22年度に実施された間伐の有無や方法により差があり、定性間伐が実施されていた箇所は稚樹・実生が少なかった。
  • 伐採前の光環境として、相対照度は、平成22年度に間伐を実施したプロットでは5~10%となっていたが、無間伐の試験林であったNo.42で は1%程度であった。
  • 試行伐採の実施にあたり、単木あたりの歩掛りは定性間伐が最も大きく、小面積(20m×20m)の群状伐採が最も小さかった。群状伐採を実施し た2箇所で、単木あたりの歩掛りが大きく異なったのは、既に実施されていた定性間伐の残材が作業の障害となったためと考えられた。
  • 10月から12月にかけて8基設置したシードトラップで捕捉された種子のうち、スギ以外の種子は、鳥散布のヤブニッケイ種子が2基に1個ずつで あった。鳥散布種子が捕捉されたことから、鳥による利用があると考えられた。
  • 上空が開空間となっている箇所(列状間伐の伐開列、群状間伐箇所)に設置したシードトラップでは、捕捉された種子の数が少なかった。
  • 試行伐採を実施した4プロットのうち3プロットで、先駆性樹種(カナクギノキ、カラスザンショウ、モチノキ)の埋土種子が確認された。
  • 今回の調査では伐採区域の周辺や残材の片付け区には、シカの侵入が確認されたが、伐り置き区への侵入は確認されなかった。

(3)種子の播種による実生発生の試行的調査

  • 10月から12月にかけて1か月ごと3回種子の採取を実施したところ、11月に最も効率よく多くの種子が採取された。
  • 竹筒による保護の試行にあたり、1個あたりのコストは80円で、土中への竹筒の打ち込みには1分程度要した。

(4)シカの密度実態調査

  • 本年度の調査では調査地域に生息するシカ密度は約40頭/㎞2と推定され、平成20年度に綾南林道で実施された調査結果約15頭/㎞2より高い密度となった。
  • 綾町の森林地域における自然増加数を10%と想定した場合、シカの年間増加数(252頭/年)に対し、有害捕獲実績(153頭/年)は低く、当該地域のシカは増加傾向にあることが示唆された。

(綾川流域照葉樹林帯保護・復元計画(綾の照葉樹林プロジェクト)平成24年度事業報告書p13

引用が長くなってしまいましたが、一読していただければわかるように、綾の照葉樹林プロジェクトの《人工林を照葉樹林へと復元する》手法は主に人工林を間伐し、その空間にその土地本来の樹木である広葉樹林が自然に生まれるのを長い目で観察・管理すると言うものです。そして広葉樹の高木を中心とする多層群落を形成し、当面は混交林を状態をめざすのですが、徐々に人工林を駆逐していくプロセスを描いているようです。

もっぱら私が教科書としている宮脇昭さんの『木を植えよ!』のように積極的に人の手で植樹をすることを我慢して、時間的にも空間的にも自然の運命にまかせようという《綾の照葉樹林プロジェクト》の哲学を見るような気がします。

次回は人工林の間伐に加え、植樹による照葉樹林への復元を積極的に図るような事例をぜひとも見つけたいものです。

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