朝日新聞の購読者であれば毎月第一日曜日にthe asahi shinbun globe(朝日新聞グローブ)というタブロイド判の付録?を目にすることができます。この備忘録にも一度だけそのglobeに掲載されていた火山学者の見解を引用したこともあるほどに、レイアウトも横組みでオシャレなデザインの、毎号興味深い特集を提供してくれているのですが、そのseptember 2016 no.185号の表紙はこのようなものでした。
《森の活かし方》という新しい時代の、新しい森のカタチをテーマにしたような、しかも格調高い明朝体の文字に一瞬、私の目は輝いたのですが、その下にはしっかりと目立つオレンジ色で《カネのなる木を探して》とあります。なるほど、一面の2/3ほどを占めるイラストに目を移すと巨大な金庫のなかにギッシリ詰まった樹林を、満足げな顔をして眺めている肥満した男が描かれていました。この象徴性を持つステレオタイプな男は一体全体何者なのでしょう。
この男の正体をはっきりさせるために、この特集記事を要約すると、これまでの環境意識の高まりに加え、森がカネを生む資産としても注目され始めたために、地上の森林減少にも歯止めがかかりそうだということです。そこで世界各地の、特に先進国の森林経営や投資事情を網羅的に紹介しているのですが、どうやら日本だけは、林野庁の役人の希望を含ませた見解にもかかわらず、この潮流に乗ることができずにいることは、これまでこの備忘録でも、何度となく批判的に取り上げた通りです。
ですが、期待を込めて言えば、日本国内に50億㎥を超えるという人工林の蓄積量を有効に消費する需要先として、木造建築が有望視されているようです。耐震・耐火強度を備えた木の加工技術の進展が、これを可能にしたのですが、住宅以外にも《コンクリートから木へ》という機運が強まっており、欧米でも《都市の木造化》がトレンドになっていると、記事は伝えています。
また、読者を最後まで記事に引き付けるために、アイ・キャッチ風の数字を所々に大きくはめ込んでいるのですが、なかには大変興味深い話題も並んでおり、私の目指す《潜在自然植生》とも関わりありそうな感じなので、一般教養として学んでみたいと思います。
森林投資の1年間の利回りが6.4%であるという話から。この記事を読むと(アメリカの話ですが)森林はすでに魅力的な《投資商品》なのだそうです。ある投資会社が立ち上げた森林ファンドは、あのリーマンショック以降、安定資産の一つに数えられるほどの魅力を獲得し、この10年間は平均6.4%を推移していると言います。この数字が意味するところは全くわかりませんが、少なくとも、国内銀行の定期預金金利よりははるかに高いようですね。一般的には苗木の成長には50年の時間がどうしても必要となり、従って今年の植樹で木材として売れるのは、随分先の話となり、果たして安定した木材価格を維持できるのか、日本林業の衰退を見ているだけに、そのあたりのリスクはどうなのでしょうか。
投資の次は地球上の木の本数が、3兆450億本という話。衛星画像などをスパコンで解析し出したこの数字の意味は計りかねるところですが、これまでの推測からすると、予想をはるかに上回るものだそうです。そして国連食糧農業機関(fao)によると、陸地の3割(約40億ha)を占める世界の森の面積=3割が原生林+6割がヒトの手が入った再生林(原文は天然再生林と表記)+残りの1割が人工林であるとしています。ちなみに日本の場合はそれぞれ0:6:4だったはずなので、世界の趨勢とは少し事情が異なっているようです。
また、喜ぶべきことは、森林の減少に歯止めがかかりつつあるらしいことです。例えば、1990年代には0.18%/年だった森の消失率が2010〜2015年には0.08%/年に下がり、先進国では森林増加に反転している国も出てきているとしています。これは、一つには農業技術の進展により、面積あたりの収穫高が増え、過剰になった農地が森に還っていることや木を伐採するだけではなく、植樹も同時に進めるようになったことなどが考えられるそうです。そういう訳で、やがて森林の減少もストップがかかり、2050年頃には森はプラス10%となりそうだと予測しています。
この夏、cnnの電子版に《ノルウェー、国内の森林伐採を禁止 世界で初》というニュースが載っており、後で改めて読むつもりでブックマークしていたのですが、あまりにも遅すぎたのか、ページを探そうにもnot foundになってしまいました。
雪山と鬱蒼と茂る針葉樹の森が連なる景色が私たちの北欧3国のイメージですが、その一角を構成するノルウェーが森林の伐採を禁止したというのですから、その詳しい内容をぜひとも知りたくなってしまいます。
(この稿未完)