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《潜在自然植生の森》プレゼンテーション

5年目の3月11日を映すtvの画面に向かって言う。被災地に人の生活が戻り、彼らの街と緑が早く蘇りますようにと

普遍3要素《潜在自然植生》の木を植えるという事業の優位性について。よくよく考えてみると、ここには二種類の異なる層の、ヒトにとっての効用や価値をもたらしてくれる優位があるようです。一つはこの事業が人工林や雑木林のそれに較べて相対的に優れていることがら。二つ目はもっと俯瞰した視点から捉えると、例えばこの備忘録に何度も顔を出す左のコンセプチュアルな図のように、植物だけが本来持っている普遍的な優位性のことになります。

そこで、それぞれの優位性をただ箇条書きにして並べるだけではなく、二つの層をつなぎながら全体を一つのストーリーとしてプレゼンテーションできると、より顧客説得力も増すように思うのです。下の一覧は《潜在自然植生》の木を植え、多層群落の森を作る事業が持っている8つ事業優位性を並べたもの。1から5までは、主に針葉樹の人工林や里山の雑木林と比べての広葉樹林の優位性をピックアップしたものであり、6〜8は植物一般が持つ特長であると同時に、とりわけ広葉樹にその高い効用が備わっている項目で構成されています。

8advantages

これら8つの優位性を踏まえながら、《潜在自然植生》の木を植えて常緑広葉樹の森を育てる事業の一連の優位性を一つのストーリー仕立てにしたプレゼンテーションを試みてみましょう。顧客の琴線に触れるようなレベルに到達できるでしょうか。

《潜在自然植生》の常緑広葉樹の森は、手入れ不要の森。

今では滅多に見ることもなくなった《潜在自然植生》。もともとその土地の環境に適応した植物群落のことです。かつて、丹沢を含む標高800m以下の関東地方では、私たちがどんぐりがなる木として親しみを持っているシイ・タブ・カシ類の常緑広葉樹が育む豊かな自然の森が拡がっていました。この《潜在自然植生》の森も伐採や植林、汚染などヒトの干渉を受け続けたことで、今日では《鎮守の森》と呼ばれている社寺林などに局所的に残っているだけとなっています。

実はその土地の気候、風土にあった《潜在自然植生》の森は、太古の森がそうであったように、ヒトの管理を必要としない、自然に任せた成長を基本とします。反対に、今や花粉症の元凶として有名になってしまったスギなどの人工林や里山の雑木林は、枝打ち・間伐・下草刈り・伐採・植林などのヒトの手による定期的な管理が欠かせない植生です。ところが1,000万haにも拡がってしまった日本の人工林は木材価格の下落で採算が取れなくなった結果、これまでの管理もおろそかになってしまい、そのため山の環境も劣化するなど大きな社会問題になっています。

このようにヒトの都合で育てられ、林業の衰退というヒトの都合で管理放棄された人工林がもたらしたものは、山の環境劣化だと言われています。このあたりで、もともと土地本来の樹種であリ、ヒトの手を加えなくても自然に任せて成長し、山の環境を豊かに育んでくれる《潜在自然植生》の森を、人工林に替わり再生してみることは、これから私たちが山の自然と共存し、うまく付き合っていく上での一つのヒントになるのではないでしょうか。私にはむしろそれが魅力的なことにも思えてきます。

目指すのは、神宮の森。

実際、失われた《潜在自然植生》の森を育てようという試みは、30〜40年前から元横浜国大教授の宮脇昭さんを中心に、全国で1,300カ所以上、神奈川県下でも100カ所を超える事例*があるように、都市部山間部を問わず、その土地本来の樹種の植樹活動が主にボランティアを中心に行われてきました。特に東日本大震災以降は、常緑広葉樹が持つ災害に対する強さが注目され、新しいタイプの防災林としても認知されつつあるようです。

神奈川事例

写真は宮脇式潜在自然植生の植樹事例。上の2点は横浜市北部第二下水処理場の防災保全林。下は横浜市保土ヶ谷区にある横浜国立大学常盤台キャンパス正門から続く環境保全林。いずれも植樹から30〜35年ほど経過しており、高木の樹高は20〜30mになっている。二例とも道路に舞い落ちる落ち葉を集めて林床に戻す以外の管理は行わず自然に任せている。ここが人工林や里山の雑木林と較べて決定的に異なっている。

ところで、宮脇昭さんの提唱する《潜在自然植生》の森を育てる植樹法は(標高800m以下の関東地方以西では)その土地本来の常緑広葉樹の高木に加え、亜高木—低木—草本の多層群落を構成する10〜16の樹種を一度に《混植・密植》するというユニークな手法*を用いています。

私の忘備録は宮脇昭さんの《潜在自然植生の森の育て方》を宮脇さんの著作から勝手に引用、模写したもので全編が構成されていると言っても過言ではない。《混植・密植》についてもその詳細を「ふるさとの木によるふるさとの森づくり」というタイトルで6回にわたってイラストを付けたわかりやすい構成にして紹介。

この植樹法を使えば、全国での多くの事例が示しているように、植樹後3〜4年間の下草取りなどの人手を借りるだけで、それ以降は自然に任せての成長が可能になります。小さいときは競り合いながら密度効果によって共生し、成長するに従って自然淘汰に直面しながらも、樹種の特性に応じて高木から草本層へと住み分けをしながら、20〜30年経てば一般的に高木は20〜30mの高さまで伸びていき、森の多層群落の基本的なカタチもこの頃には出来上がってきます。

そして百年経つと、神宮の森のように常緑広葉樹を主木とした高木—亜高木多層群落の豊かな森が出現することになるでしょう。このように、一度自然の森に近い環境が出来上がると、放牧などヒトの干渉や天変地異がない限り、たとえ個体は交代しても太古の森がそうであったように、ほぼ半永久的*に森のシステムは安定して維持できると言われています。

地球の気候は約10万年周期で温暖期と氷河期を繰り返しているとのこと。だとすれば、関東地方の常緑広葉樹の森も氷河期がやってくるとなくなってしまうことになり、その意味で森は永久に続く訳ではない。また次の氷河期の到来は約9000年後だとどこかで聞いたことがある。

これに関連して、私にはずっと忘れることのできない明治神宮の人の言葉を紹介しておきます。

神宮の人

《潜在自然植生》の常緑広葉樹の森は、いのちを守る自立した循環装置

ふるさとの木による多層群落のふるさとの森は、同時に植物だけが持つ、生物の多様性に満ちた豊かで循環する自然環境を作ってくれます。

森の土壌広葉樹の落ち葉などが土壌生物によって有機物に分解されます。有機物はカビやバクテリアなどの微生物によってミネラルに還元され、このことが、以下のような三つの大きな働きをすると考えられています。

第一に、雨水に溶けた有機物やミネラルはまずは植物の成長を促してくれます。第二に、その多くは地中に浸透し水源となり、また川の水となって土砂を運び、肥沃な土壌を作り出してくれます。そして第三は、有機物やミネラルを豊富に含む森の水が海に流れ、これをエサとした植物プランクトンが繁殖、食物連鎖といわれる循環システムの端緒を切り開くとされています。

この山と海の間をカバーするような広大な地球規模の循環システムは、植物が二酸化炭素を固定し酸素を作るという働きと併せて、植物が作る有機物やミネラルによっても、すべての動植物が生き延びることを意味します。

例えば、三陸の漁師が陸地に拡がる森を昔から大切にしてきたのも、海を見下ろす広大な森が海の魚や海産物を育て、増やしてくれる循環システムの源であることがわかっていたからに他なりません。

(この稿未完)

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