丹沢の地図を眺めていると、私の語彙力ではとても読めそうにもない地名とか、その由来を知りたくなるような漢字が、実は続々と出て来ます。きちんと調べるには『日本地名語源辞典』などに頼るのが一番ですが、最近はgoogleなどでも簡単にひも解くこともできるようになりました。そこで魅力的で興味深い地名を、見つけ次第俎上に載せてみたいと思います。例えば、これ。
◎海底(おぞこう、おぞこ)
愛川町にあるこの地名を地図に見つけた時は、おそらく古代の海底に生息していためずらしい貝殻か魚の化石がこの地から多く発見でもされ、近年になって「海底」にあった場所という理由で、そう命名されたのだろうと私立探偵はそう推理しました。丹沢はその昔、今の伊豆半島が日本列島にぶつかる前の頃、隆起した海底がフィリピンプレートに運ばれて列島にたどり着いたものらしく、その後伊豆半島が来たために、この半島に押されて盛り上がってしまい、ついには現在のような山塊になったものであると 聞いたことがあるからです。ちなみに丹沢は今でも数センチメートル/年の割合で盛り上がっているとか。
仮にそうだとしても、「海底」を何故「おぞこう」または「おぞこ」と読むのでしょうか。
日本の地名は往々にして、漢字の表記に当て字が多く、大切なのは音(おん)つまり「おぞこう」という発音にあると言われています。例えば、私が住んでいる所の地名は「綱島」ですが、この由来は大昔、海辺の所々で海面から顔を出していたという「津の島」から来ているとあり、「つのしま」がいつの間にか「つなしま」となまって発音されるようになり、現在の「綱島」に落ち着いたということです。従ってこの場合の漢字表記も当て字ということになりますね。
ちなみに、古くから庶民の山岳信仰の対象とされ、雨請いの神社としても有名な大山の阿夫利(あふり)神社の「阿夫利」も、「雨降り」から来ているという言い伝えはご存知ですね。
そこで「おぞこう」に戻りますが、山下重吉氏の『日本地名語源辞典』によると、「おそ」はアイヌ語およびそのルーツとなったサンスクリット語で読み解くことができるようで、細い枝や細い支流を表しており、「こう」または「ごう」も同様に枝、支流、水流、川の意味があるそうです。例えばその昔、そこが何本かの川筋に分かれていた中津川のたもとにあったことから由来しているのかも知れません。
同じようにアイヌ語起源説があるのが「厚木」。縄文時代から現在の相模川となる三つの川が合流する場所にあったことから「アイヌ語でいうAtu(吐き出す)ki(場所)=吐き出す場所がその起源である」というものです。この他には、この川を利用して山々から運ばれてくる「木」を「あつ(集)」める中継地として栄えていたことから来たものとされる「あつ(集)木」説が有力のようですが、丹沢やその周辺には、普段は口にしないような地名が多く見受けられるので、アイヌ語起源説にも興味がいってしまう訳です。
愛川町には「海底」の他にも「馬渡(まわたり)」、「三増(みませ)」など。厚木市では「広沢寺(こうたくじ)」、「七沢(ならさわ)」、「尼寺(にんじ)」、「狢坂峠(むじなざかとうげ)」など、なんだか当て字っぽい地名にも思える、なかなか素直には読めそうもない地名がありました。
こんな調子で、魅力的で興味深い地名を並べて、推理力の向上を試みてみたいと思います。まずは上述の愛川町のほぼ南に位置する清川村から選んでみました。(以下出典は『山と高原地図21丹沢』昭文社1994年)
清川村
- 法論堂(おろんど)
- 古在家(こざいけ)
- 金翅 (こんじ)
- 寺家谷戸(じけやと)
- 日高 (ひったか)
- 札掛 (ふだかけ)
- 辺室山(へんむろさん)
- 曲師宿(まげしやど)
- 谷太郎(やたろう)
伊勢原市
- 洗水 (あろうず)
- 九十九曲(くじゅうくまがり)
- 子易 (こやす)
- 〆引 (しめひき)
- 日向薬師(ひなたやくし)
- 坊中(ぼうぢゅう)
秦野市
- 新田 (あらた)
- 後沢乗越(うしろさわのっこし)
- 大音沢(おおとさわ)
- 大丸 (おおまる)
- 才ヶ分(さいかぶん)
- 千村 (ちむれ)
- 名古木(ながぬき)
- 三廻部(みくるべ)
松田町
- 神山 (こうやま)
- 寄 (やどろぎ)
山北町
- 畦ヶ丸(あぜがまる)
- 加入道山(かにゅうどうやま)
- 玄倉 (くろくら)
- 菰釣山(こもつるしやま)
- 酒匂川(さかわがわ)
- サンザ洞(さんざぼら)
- 下棚 (しもんたな)
- 酒水ノ滝(しゃすいのたき)
- 透間 (すきま)
- 大界木山(だいかいぎやま)
- 高指山(たかざすやま)
- 都夫良野(つぶらの)
- 尺里 (ひさり)
- 人遠 (ひとどお)
- 檜洞丸(ひのきぼらまる)
- 世附 (よずく)
以下続く