丹沢の病い3/10=土壌動物の衰退

丹沢の森を再生するために、まず森の現況を知ることから始めようとする試み《丹沢の病い》シリーズ第三回目は《丹沢の病い3/10=土壌動物の衰退》について。前回と同様に丹沢大山総合調査学術報告書(2007年)に沿って整理してみました。

森の土中で活動するダニやミミズなど多くの土壌動物は、私たちの目に直接触れることは少ないのですが、森という自然の生態系のなかで、豊かな環境をつくるための大変重要な役割を果たしながら、生きていることは言うまでもありません。丹沢の一角では、これらの土壌動物が衰退の危機にさらされており、上述の報告書からは、とりわけシカの食害によって引き起こされた植生の衰退が、土壌動物に与える連鎖的な影響を詳しく見て取ることができます。(報告書 第2章・第5節「土壌動物と菌類」1 丹沢山地におけるシカによる環境変化が土壌動物群集へ及ぼす影響の詳細はコチラ

シカとの相関関係で土壌動物の群集構造の変化を比較調査するために、ここではシカ密度および森の標高の差異を縦横の軸にした4つのマトリクスを設定し、この4カ所を徹底して調査するという手法を採用しています。更にシカ密度の高いブナ天然林の調査エリア堂平には植生保護柵を設置し、シカの影響が及ばない環境下での土壌も同時に調べるということも実施しています。調査の対象としたのはササラダニ、ミミズ、(ダニ・トビムシを除く)大型土壌動物の三種類ですが、丹沢ではこれらの土壌動物の生態にはシカが大きな影響を与えているという結果がでています。

4つのマトリクス
(表は上記報告書 第2章・第5節「土壌動物と菌類」1 丹沢山地におけるシカによる環境変化が土壌動物群集へ及ぼす影響p353より転載)

ササラダニ

ササラダニは土壌中で腐植を餌にするダニの一種で、環境に対する生物指標となるなど、いわゆる分解者として自然界の仕組みのなかでは重要な位置を占めているそうです。そこで、シカとの関係を調べてみると、スギ人工林ではシカ密度との関連性はみられないのですが、高標高のブナ天然林ではその影響が顕著にあらわれました。その影響の高さから順に、シカ高密度域(堂平)>植生保護柵内(堂平)>シカ低密度域(イデン沢)となり、ササラダニの種数・個体数ともにシカ高密度域(堂平)はシカ低密度域(イデン沢)の1/5以下であったと報告されています。

堂平はシカ激害地といわれるほど、その食害による植生の劣化や土壌流出が続いているところです。他方、同じブナ天然林のイデン沢は、シカの生息が少ないという理由から林床のササ群落も人の背丈を超えるほどの、健全な植生が保たれているのです。

ミミズ

エリアによる生息数の変化は見られませんが、表層性・地中性という組成でより詳しく調べるとイデン沢のほうが表層種ミミズの割合が大きく、堂平の植生保護柵内でも同様の傾向が見られたそうです。これは保護柵内はシカに荒らされることがないためリターが厚く堆積し、これが表層性ミミズの定着を促しているということによると思われます。

大型土壌動物(ダニ・トビムシを除く)

この場合も4つのクラスタ別の比較ではミミズと同様の傾向が見られ、シカ密度の高い堂平の大型土壌動物の個体数はイデン沢の1/5以下の状態まで劣化しているそうです。

全体として、(皮肉にも!)低標高のスギ人工林ではシカの密度による土壌動物への影響の差異はないようですが、ブナ天然林になると土壌動物の衰退への影響は著しく、生物多様性の深刻な劣化がシカ(の食害)が原因となって起こっていることが、調査によっても明らかですね。
丹沢の特に東丹沢のシカの食害とその深刻さについては、このシリーズの《丹沢の病い2/10=林床植生の退行》で詳しく紹介しました。問題はその原因除去の施策ですが、国・自治体による対策では、解決を図るには程遠いのが実情のようですが。
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