私は『木を植えよ!』の著者である宮脇昭さんの、隠れ生徒を自称できるようになるために、今は一心不乱に?勉強中なのですが、さっそく大きな疑問が一つ出てきました。それは、マツ、スギ、ヒノキなどの針葉樹からなる人工林が駆逐され、丹沢の森が潜在自然植生に基づく常緑広葉樹や落葉広葉樹を主木とする多層群落に覆われてしまうと、せっかくの植樹事業なるものも途中で不要になってしまうのではないか?!という不安です。
例えば宮脇さんの『森の力—植物生態学者の理論と実践』(講談社現代新書 2013年)のなかには次のような記述があります。
潜在自然植生に基づく幼木のポット苗を用いて、主木を中心にできるだけ多くの土地本来の森の構成種群を混植・密植すれば、十五年、二十年経つにしたがって高木層、亞高木層、低木層が形成されます。・・・・下草の種や胞子が野鳥や風に運ばれて根付き、草本層も形成され、土地本来の潜在自然植生が顕在化したダイナミックで安定した多層群落の森が完成します。(同上p127)
つまり20〜30年で自然に近い、その土地本来の森のカタチが形成される訳ですが、そうなると森はヒトの手から離れてしまい、生態系としての自立した循環過程に入ってしまうのでしょうか。宮脇さんは、そのヒトの手についても言及しています。
植えてからの二〜三年は草取りなどの管理が年に一〜二回は必要です。しかし三年目以降は、剪定、枝打ち、間伐、下草刈りなどの無理な管理をしないことです。(同上p119)
宮脇さんの推奨する《ほっこらマウンドの土壌とポット苗》を使った方法だと、20〜30年どころか、たった3年でヒトの手を離れ、それ以降は自然に任せるのが一番だということになります。他方、林業として成り立たなくなったために、その多くが放置されたままになっている針葉樹の森については、ヒトの手はどうなのでしょうか。同じく『森の力ー植物生態学者の理論と実践』のなかで、
もともと無理して、土地本来の森を伐採してまで客員樹木として植えられてきたスギ、ヒノキ、カラマツ、クロマツ、アカマツなどの針葉樹。その土地に合わな いために、下草刈り、枝打ち、間伐などの人間による管理を止めた途端に、ネザサ、ススキ、ツル植物のクズ、ヤマブドウなどの林縁植物が林内に侵入繁茂します。・・・・悩みの種が帰化植物であるモウソウチク・・・・(同上p77)
などと、ヒトの手を煩わせるこれら針葉樹とその森の現状を嘆いています。このことから、《丹沢の森をビジネスで再生する》ためには、単純に丹沢の土地本来の常緑広葉樹や落葉広葉樹の苗木を植えるだけでなく、ひょっとするとそれ以上に人工林を照葉樹林へと復元するための作業の方が大きくなるのではないかと思われます。今日はこの復元に取り組んでいる事例を紹介し、その手法などを考えてみたいと思います。
てるはの森の会の《綾の照葉樹林プロジェクト》
てるはの森の会は《綾の照葉樹林プロジェクト》という宮崎県の照葉樹林の回廊の実現を目指している事業主体の一つである一般社団法人で、《綾の照葉樹林プロジェクト》のことを次のように紹介しています。(てるはの森の会のウェブサイトはコチラ)
九州森林管理局・宮崎県・綾町・(財)日本自然保護協会・てるはの森の会の5者が協定書を取り交わし、日本に残された最後の広大な照葉樹林の森を協力して保護・復元していくことを約束しました。
官・学・民が一体となって推進する「綾の照葉樹林プロジェクト」
日本でも例のないこの壮大なプロジェクト実現のためには、多くの人々のご協力が必要です。
また、プロジェクトの事業報告書を2008年度から毎年ウェブサイト上でも公表していますので、報告書のなかから《人工林から照葉樹林への復元》に関わる部分を抜き出してみたいと思います。(続く)