宮脇昭さんの『木を植えよ!』(新潮選書2006)を教科書にして進める《森の作り方》シリーズの、今回は第三回《幼苗の植え方》です。ところで、ここで イメージする樹種は丹沢山系の中域700〜800m以下分布する常緑広葉樹林(ヤブコウジースダジイ群集)になりますが、これら常緑広葉樹は葉が入れ替わ る時に古いものは紅葉しないのでしょうか?秋、山は頂から色づき、次第に麓まで紅葉は降りてくるといいますが、はたして常緑広葉樹の葉は紅葉しないままに、そしていつ落葉してしまうのか?が最初からナゾでした。この疑問に答えてくれたのが、見て楽しい・読んでナットクの『森のさんぽ図鑑』(長谷川哲雄著 築地書館 2014)。
常緑の樹木も、時がくれば必ず、新旧の葉が入れ替わる。古い葉が、赤や黄色に色づくこともあり、美しいものである。ある年、公園で拾い集めた、色づいた常緑樹の葉。何の葉だか、おわかりにあるだろうか?(『森のさんぽ図鑑』p101)
として隣りのページに《葉の更新と紅葉》という見出しで、いろんな色づき、変色してしまったきれいな落ち葉がイラストで紹介されています。『森のさんぽ図鑑』は図鑑ながらも、A5版のコンパクトなサイズのため、大変持ち運びやすく、私にとっては机の上でも野外でも欠かせません。フィールドワークを愛する多くの人におススメの一冊です。なお、常緑樹は落葉樹のように秋に一斉に葉を落とすことはありませんが、新葉が伸びると旧葉はパラパラと落ちるとのこと。それも毎年、新葉と旧葉が交代するものや2〜3年とか4〜5年かけて交代する樹種のものまであるそうです。
すこし横道にそれてしまいましたが、《森の作り方》の第三回《幼苗の植え方》は、以下の3点について『木を植えよ!』から学ぶことにします。
- 植樹地を準備する
- ポットから取り出した幼苗の植え方
- マルチングとは
1)植樹地を準備する
木の苗は、その根の張り具合が、その後の成長を左右するのだそうです。そこで一番大切になるのが、表土の環境です。表土には落ち葉や枯れ草などから生成さ れる有機物がなによりも必要になります。この点、人工林ではない自然の森だけはこの条件が整っていますが、『木を植えよ!』には、森以外の都市空間や人び とが暮らす生活空間で常緑広葉樹の森を作るための、表土の土壌作りを詳しく教えてくれます。
2)ポットから取り出した幼猫の植え方
植樹地の準備ができたたら、いよいよ幼苗を植える作業を、以下の順番で進めます。
- ポットの深さの1.5倍ほどの穴を掘る
- 幼猫をポットのまま水にさっとつける
- 水につけた苗をポットからゆっくりはずし、植え穴に苗を置き、少し浮かし気味にしながら周りから土を入れる
- 土壌の表面と同じ高さになるまで土を入れ、苗の周囲を手でしっかり押さえる
- 次に上記とは異なる樹種の苗を、移植ゴテ2つ分ほどあけた間隔(1平方メートルに3本の割合)で植える
こうして、同様の作業を繰り返して植樹地を幼苗で満たすわけですが、特に最後の5番目の項目は、多様性に富んだ土地本来の多層群落の森を形成するためにも 重要なポイントになります。針葉樹林などの人工林に見られる、同じ樹種だけを規則正しく植えないとこが森作りの鉄則だそうです。そしてもう一つのポイント は密植。なにしろ1平方メートルに3本の割合で幼苗を植えるわけですから、成長後をイメージすると、かなりの密植だといえます。その訳は日を改めて学ぶこ とにしましょう。
3)マルチングとは
森の育成に必要な落ち葉に覆われた表土のことをマルチングといいます。例えば、落ち葉に覆われた自然のままの表土は自然のマルチングですね。人工の環境に植樹する場合は、人の手で森と同じような状態を作ることが不可欠になります。
この場合には稲藁などの敷き藁を植樹地全体にかぶせて敷きつめるマルチング作業が加わってきます。これによって、土壌の水分蒸発や土の流出を防いでくれる利点に加えて、雑草の育成を押さえ、冬期は防寒の役割も果たしてくれるなど、多様な役割を担ってくれるのです。また、言うまでもありませんが、敷き藁などは時間とともに分解され、幼苗の大切な養分になるのです。
今回の《幼苗の植え方》は森を作る、または再生する上で、最も基本となる作業の一つだということが、よくわかりました。『木を植えよ!』の宮脇昭さんは本の中で、幼苗の植え方の作業の それぞれに写真を付けて、プロセス全体を大変わかりやすく紹介してくれています。写真には楽しそうに苗を植えている子供たちが写っているのですから、65 歳をこえたこの私にも何とか出来そうな、その気にさせる本です。( 下は左が《幼苗の植え方》の写真ページp170-171)