神奈川の森林再生事業《成長の森》のこと

前回の備忘録《神奈川県の森林・林業施策2/2》の中で簡単に触れた《成長の森》という森林再生事業について、少し横道に逸れますが、今回は詳しく紹介してみたいと思います。事業のスケールは決して大きくもなく、地道な試みのようなのですが、そこに込められたものには、森林再生に向けての、県民と共にというあるべき基本精神の一つが宿っているような気がして、私には大変興味深く思えるのです。

《成長の森》のコンセプト

この事業は、神奈川県と(財)かながわトラストみどり財団が共同で2007年から実施しているもので、赤ちゃんが生まれたご 家族等に参加を募り、赤ちゃんの誕生を記念に、その健やかな成長と苗木の成長を重ね合わせた、生涯にわたる記念樹として、森林の様々な恵みを次の世代へ引き継いでいくことを目的とするもの。お子さんの名前を記した銘板を設置するとともに、参加者の現地見学会、植樹会を行うなど、神奈川の森林再生のための象徴的な取組みの一つとして実施されています。

《成長の森》の作業プロセス

成長の森フロー右が《成長の森》の申し込みから植樹・管理までの一連の流れを示したフロー図になります。

流れを見ると、この事業に参加する県民と植樹を請け負う神奈川県との間に(財)かながわトラストみどり財団を入れて、受付および苗木購入の手続き事務を担わせています。

従って、事業参加費としての¥3,000/一人は、かながわトラストみどり財団の事務手数料および苗木購入の実費に当てられているのだと思われます。樹種によっても苗木の価格は異なりますが、例えば欅(ケヤキ)だと30-50cmほどの樹高のものが1,000円前後で小売されていることを考えると、実際にはもっと安価に購入されており、残金が事務手数料だとしても、財団がこれにかけるパワーはほとんどボランティアレベルと言えるでしょう。

そして苗木を寄付というカタチでもらい受けた神奈川県は実際の植樹作業を担うわけですが、フロー図でも示したように、準備から後々の育樹管理まで、多くの作業プロセスが必要となります。

まず、植樹予定地の樹林を伐採し、搬出する大変な作業から始まります。《成長の森》のウェブサイトを見ると、2.87haの針葉樹の森のうち全体の約30%の0.84haの面積に5,500本のケヤキやクヌギなどの10種類の広葉樹の苗木を植樹。将来は針葉樹林に広葉樹の混じった森林にするのだそうです。そこで、樹木の伐採・搬出から植樹作業までの一連の流れを順を追って、ウェブサイト掲載の写真を使って説明してみます。

成長の森foto1成長の森foto2

成長の森foto3

以上、2007年のやどりき水源地での作業を記録したものですが、これらの写真を見るだけでも、山間の急な斜面での作業の困難さがわかります。スギ林の一角を伐採し、数種類の夏緑(落葉)広葉樹の苗木5,500本を植樹するだけでも一大事業のようです。加えて、植樹以降の成長するまでの長期にわたる管理が待っているわけですから、1本の苗木が成木になるまでに必要となるトータルコストは、果たしていくらになるのでしょうか。是非とも知っておきたいものです。

《成長の森》と《宮脇式植樹法》

次に、写真からわかってきた《成長の森》と私が現在密かに学習中の《宮脇式潜在自然植生》それぞれの植樹法の違いを検討してみましょう。

  • 伐採した樹木は、搬出等のコストをカバーしてくれるような商品価値が見込まれる以外は、斜面を支え斜面の崩れを防ぐために(写真5のように)そのまま土どめとして斜面に対して横に寝かせ、これを2〜3mの間隔で作っておけばよいと宮脇さんは言います。そうすれば、そこに落ち葉などもたまって豊かな土壌ができるそうです。《成長の森》ではスギを伐採後搬出し販売していますが、当時の価格と損益分岐を知りたいものです。
  • また、宮脇式植樹法では斜面が穏やかな場合、ほっこらマウンドと呼ばれている断面がカマボコ型の盛り土を造成することを提唱しています。その際、不可欠となるのが盛り土の中に木の枝や葉などを混ぜ合わせ、隙間を作ることで空気(酸素)を満たしてあげること。理由は植物は根で勝負し、その根は息をしていることが重要だからです。必要なのは土の中の酸素です。
  • 《成長の森》で使う広葉樹の苗木の重さは約1.5kg/1苗にもなるとありました。この重さのものを5,000本も持って山を登るとなると、それは大変な労力を使ってしまいます。これに対して宮脇式植樹法ではポット苗を使っていますが、樹高は30〜50cmほどの苗木で、その大きさ、重さともに小学生が片手で持ち上げることができるほどのものです。写真7〜8を見るかぎりではポット苗ではないようです。その理由を知りたいものです。
  • 植樹後の様子を撮った写真9を見ると、単種の苗木だけが植えられているようにも思われ、その通りだとすれば、将来、この一帯が例えばケヤキだけの画一的な単植林(モノカルチャー)になってしまうことに、心配はないのでしょうか。私の考えは教科書的過ぎるのかもしれませんが、森の豊かな生態系を育むことの重要性を考えると、もしそれが可能であれば、高木—亜高木—低木—草木の多層群落を形作るような多種類の苗木を用意し、植樹することが求められているのではないでしょうか。

成長の森概要次に、最初に載せる予定だったのが、最後になってしまいましたが、植栽地の詳細を一覧にして示します。

2007年度から始まった《成長の森》事業は2012年まではやどりぎ水源林で、2013年からは場所を変えて県立21世紀の森で行われています。と同時に樹種も当初の夏緑広葉樹から針葉樹の無花粉スギに変わりました。これは新種のテストを兼ねているものだと思われます。また植栽時のスタイルも申込者が植樹を体験出来る植樹会を開催するなど、より中身も充実したものになっています。

県立21世紀の森にはずいぶん前になりますが、一度訪れたことがあり、東京ドーム22個ほどが入る広大な敷地内を散策するだけで疲労困憊してしまうほどでした。この森の中の《成長の森》は針葉樹なので、他の広葉樹よりも早く、しかも垂直に伸びていくため、十年二十年先が楽しみになるのでしょう。

楽しみといえば、2012年までに植樹されたケヤキなど10種類の夏緑広葉樹の成長もこの目で見てみたいものです。針葉樹に比べ成長が遅く、いわゆる良材を得にくいとされた広葉樹なので、横・斜めと多彩な?伸び方をするのですが、実際の成果はどうなっているのか、2007 年植樹の樹はそろそろ十年に近づいています。贅沢が許されるのであれば、毎年の樹木の成長の記録をウェブサイトに掲載できるようになれば、多くの人々も喜んでくれるのではないでしょうか。

◎神奈川県の《成長の森》ウェブサイトはコチラからどうぞ。

※上の「コチラ」をクリックすると、別タブで神奈川県の《成長の森》ウェブサイト「赤ちゃんと共にはぐぐむ森づくり」が開きます。

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