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広葉樹林整備マニュアルを読む3

先日ウェブ上で見つけた神奈川県の水源林整備事業のpdf資料《水源の森林づくり 広葉樹林整備マニュアル 水源かん養エリア編》を紐解いてみる備忘録《広葉樹林整備マニュアルを読む》は簡単には私の手から離れそうにもなく、今回で3回目となりました。これまで県の私有林への森林整備補助事業の詳細資料は、もっぱら人工林のそれについてのものがほとんどで、《潜在自然植生》の老学徒の私には、むしろ広葉樹林についての詳しい情報の方が欲しかったのですが、ここに来てようやく、ありがたいコトにその貴重な情報にありつくコトができたという次第です。

そこでこのpdf資料に目を通しながら、すでに記述したように、1回目と2回目は次のようなことをテーマに考えてみました。

1)《潜在自然植生》である常緑広葉樹林は下層植生が貧弱か?
2)自然遷移の手法で薪炭林を階層構造の発達した落葉広葉樹林にすることは可能か?

第一の設問は比較的簡単に解けたのですが、二番目の薪炭林の問題は一筋縄ではなく、幾つかのパターンに分けて考える必要が出てきたため、今回の三回目に持ち越したという訳です。そこで前回の結論を再確認すると、標高800m以上の薪炭林はシカの食害対策という課題を除けば、ほとんど自然任せでもOK!ということでした。関東以西の800m以上の《潜在自然植生》は薪炭林もその種類に入る落葉広葉樹だからというのがその理由です。問題は300〜800m域の薪炭林を自然遷移の手法で階層構造が豊かな植生へと誘導するという県の基本方針についてです。

この県の基本方針を詳しく見てみましょう。最初に整備林の基本方針フローチャートをマニュアルから転載します。

整備フロー

このように、対象林全てを漏れなくA〜Dまでの5つの林相に分けた上で、それぞれの処方箋を示すという理論然とした手法で基本的な考え方を明らかにしています。では、5タイプの林相に分類するための調査方法はどのようなものだったのでしょうか。マニュアルでは「対象林ごとに、所定の方法に従って現地を調査し、自然維持林の確定、整備対象林の整備内容に必要な情報を取得」し、林分構造、照度、植生、シカ生息状況など4つの林内環境項目を調査したとしています。

調査項目

調査項目一覧に出てくる調査方法《四分角法》とは「林分内で任意の点で周囲東西南北4方向の最近隣の樹木を測定する調査を、繰り返して、立木密度や平均樹高、平均胸高直径などの林分構造と、樹種構成を大まかに把握する」方法のことですが、1〜2ha当たり約50の調査ポイントを必要とするなど、対象林面積が広大なだけにそのデータも膨大な量になり、大変な苦労を伴っての調査であることがわかります。なお、調査結果は、調査ポイント別の表にまとめるなど、地理情報システムを用いて調査ポイントの位置情報と関連づけて、図化し、整備型区分と整備計画図の策定に役立てるとしています。

この調査結果をもとに、策定した整備内容を示したものが(前回も載せた)下表になります。

整備内容

整備区域が私有林のため所有者の意向により、材木生産を今後も目指す場合は《生産配慮型》として全体から切り離し、保育間伐を行うなどより手間のかかる管理プロセスを設定しています。

ここでの問題はそれ以外の《土壌保全型》の広葉樹林、それも標高800m以下の区域で「自然遷移の手法で薪炭林を階層構造の発達した落葉広葉樹林にする」ことは果たして可能か?ということです。しかし整備内容を見てみると「自然遷移の手法」といえどもまったくヒトの手を加えずに100%自然に頼るということでもなく、土壌保全・森林管理・基礎改良の各分野ともに一部オプションと断りながらも、劣化した条件下ではきちんとした整備を行うことになっているようです。

このヒトの手を加えながら「階層構造の発達した落葉広葉樹林」へと誘導することを自然遷移による手法と言うことはできませんが、おそらく一番手間を要するのは今だけで、整備の進捗によって徐々に自立した生態系が回復してくれて、将来的にはヒトの手を離れても、階層構造の発達した豊かな落葉広葉樹林が実現するという展望を持っているのだと思われます。(この稿続く)

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