森林・林業白書と百年の計(補足)

近頃公表された林野庁の《森林・林業白書》2015年度版をザッと概見しただけで、前回の備忘録ではついつい文句めいた不満話を書いてしまいましたが、せっかくの《森林・林業白書》。せめて日本の森の現状だけでも、常識人としてできれば知っておいたほうがいい、教科書的なレベルですが、個人的に興味のあるところを白書からピックアップして書き足してみたいと思います。

国産材の安定供給が望まれると、今年も言っています。

林業のことに入る前に、まずは日本の森林の概要をおさらいしてみましょう。

日本の森林

一昔前だと、日本の国土の7割は森林であると言われていましたが、今は少し減って2/3になっているようです。その森林の4割を占める人工林(1,000万haという覚えやすい数値)の50%は10齢級以上に成長しており、材木としての利用期=伐採期に来ているのですが、1980年代から続く採算性の悪化のために、国産材の供給は国内需要の30%の水準にとどまっているのが現状です。近頃は木質バイオマスの利用推進など、新しい需要の開拓により使われる量も増加傾向にあるとしてますが、大勢に影響を与えるほどではありません。

その人工林について、もっと詳しくまとめると、以下のようになります。

日本の人工林

1950年代から国策として進められた森林の人工林化は1,000万haに及び、その半分以上の木々は伐採期に成長しているのですが、前回の備忘録にも書いたように60%の山林所有者は「伐採期に達した山林はあるが、主伐をする予定はない」と答えているといいます。せっかく木材市場に出荷しても、輸入材に押されて採算割れになる上に、人工林の植樹・保育の造林コストは、その90%が植林後10年間に集中するため、主伐後の経済的な重圧に耐えられないことにその主な理由があるようです。そのためか、最近5年間に新たに植樹された人工林面積は全体のわずか2%の23万haにとどまっており、とてもではありませんが、持続可能な林業からはほど遠い感がします。このままの状態が続くと、日本の森林・林業はどうなっていくのでしょうか。

国産材を安定的に供給可能な林業に変えるためには、まず輸入材との競争に勝つことが必須条件になりますが、白書はそのための4つの課題を今年も次のように唱えています。

  1. 施業の集約化
  2. 流通の合理化
  3. 労働力の確保
  4. 路網の整備

つまり、安価な輸入材が入ってくるようになった1980年代の頃から日本林業の課題も、やるべきこともわかっていたのに、今日になってもそれがなかなか進むんでいないというのが現状のようです。では、問題解決の方に進まない理由はどこにあるのかを、この備忘録でも《林道から200mの林業》というタイトルで紹介したことがあるのですが、その際に使った主な資料は2010年当時から公表されていたもので、すでにその時にも上記と同じような4つの課題が林業の未来を分けてしまうようなクリティカルなテーマとして俎上に乗せられていました。そして、今も持ち越しとなって足踏み状態が続いているのでしょうか。

森林の多面的機能を、もっとprすることはできなでしょうか。

今年の神奈川県*を除く関東地方は、梅雨期の雨量が少ないままだと、飲み水や工業用水、農業用水が足りなくなりそうだと言われています。この冬の降雪量が少なかったことも影響しているらしいのですが、ここで鍵を握ってくるのが、これまでこの備忘録に何度も出てきた森林の持つ《水源涵養機能》です。

神奈川県以外の関東1都5県が利根川水系からの供給を受けているのに対して、神奈川県は相模川水系(相模湖・津久井湖・宮ヶ瀬湖)と酒匂川水系(丹沢湖)を使っており「神奈川県では早くからダムを整備し、水源の森を守る活動を続けたことで、安定的に水が供給され、この夏も今の所水不足の心配はありません。」とこの分野での県の優位性をprしている。これまで、私の備忘録でも様々な角度から神奈川県の森林施策を紹介してきたが、国や他県に先駆けてのきめの細かなアプローチや長期的な展望と着地点を定めた上での施策を進めるするなど、全国の模範となるようなことを事業展開している。

日本では森林法という法律の保安林制度に基づいて、国内の森林の約45%にあたる1,142万haという、民有林も含めた膨大な森の面積が水源かん養保安林(水源林)に指定されています。他方、都市住民1人が飲料水を確保するために必要な水源林は300-500㎡、下水処理水の希釈のためには900-1,000㎡の合計1,200-1,500㎡の水源林が必要とも言われており、1ha=10,000㎡なので(電卓の計算と数字が間違いなければ)水源林だけで都市生活者約8,500万人分の水をまかなっているという計算になりました。なんとなくツジツマがあっているようです。

私たちは、水道の蛇口から水が出るのは当り前のように日頃は意識もすることなく過ごしている訳ですが、この裏には水源林整備・保全のための不断からの努力があることをもっともっと人々には知ってもらい、ヒトにとっての森の大切さをもう一度理解していただければ、と思います。

今年の白書でも、森は国土の保全 、水源の涵養 、生物多様性の保全などが相互に関連しながらのの多面的な機能を備えていることを強くprしており、この3つに加えて二酸化炭素を固定し酸素を供給する機能を付けた4つの多面的な機能を大きく謳っています。

 森林の持つ4つの多面的機能

  1. 樹木の根が、土砂や岩石を固定することで、土砂の流出を防ぐ。
  2. 低木や草本、落葉、落葉で表土が覆われることにより、雨水による土壌の侵食・流出を防ぐ。(山地災害防止機能/土壌保全機能)
  3. 森林の土壌はスポンジのように雨水を吸収して一時的に蓄え、徐々に河川へと送り出すことで洪水を緩和するとともに水質を浄化する。(水源涵養機能)
  4. 樹木が樹木が二酸化炭素を吸収し、炭素を固定することで、地球温暖化防止に役立つ。(地球環境保全機能)

以上、全体の30%を占める国有林の多面的機能を持続するために、林野庁は3,500億円の予算を注ぎ込んでおり、加えて国有林野事業債務管理特別会計**でもって3,200億円を計上しています。地方自治体の施策とは別に、国(林野庁)は何をどうしているのか、このことを私たちはもう少し詳しく知っておく必要があるようです。

**2012 年1 月24 日に閣議決定された「特別会計改革の基本方針」において、「国有林野事業特別会計については、2012年度末において廃止し、一般会計へ移管するものとする。ただし、債務を国民の負担とせず、林産物収入等によって返済することを明確にするため、国有林野事業債務返済特別会計(仮称)を設置し、当該債務を承継するものとする。」とされ、これらを内容とする「国有林野の有する公益的機能の維持増進を図るための国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する等の法律」が2012 年6 月27 日に公布されました。(施行日は2013 年4 月1 日)これにより、国有林野事業債務管理特別会計は、旧国有林野事業特別会計から承継した約1.3兆円の借入金債務の処理に関する経理を行うことを目的として、2013年度から暫定的に設置されました。この借入金債務については、一般会計からの繰入金を財源として償還を行い、2048 年度までに償還を完了する予定です。(林野庁ウェブサイト)

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