丹沢の課題と解決策を聞きに行く

2014年12月13日、小田原市は箱根登山鉄道の入生田駅の近くにある生命の星・地球博物館という立派な建物の中で開かれた「丹沢大山自然再生活動報告会」(主催:丹沢大山自然再生委員会)に参加し、現在丹沢の再生に関っている人、丹沢を愛し利用している人、様々な立場から提出される課題や解決策などに聞き入ってしまいました。なかでも、森の再生というテーマは複雑で奥深いものがあり、それをビジネス的な手法で解決したいと思っている私には、大変興味深い時間を持つことができました。

この報告会の後半には3つの分野別のワークショップも開かれ、残念ながら時間があまりにも短く、進行役の方が「これだけでも一日分の重みがあるのだから、本来であれば報告会を2日にして、その2日目にワークショップを回したかった」と嘆いていたように、本当にもったいなさを実感した次第です。

とはいえ、私が参加したワークショップ「森林再生」の部は大学の二人の教授による司会&進行で、内容のある課題の提起や活発な発言が続き、丹沢の人工林の荒廃、ブナ林の劣化、そしてシカの被害などについて、そこに参加した皆さんの問題意識のレベルの高さを改めて認識させられたのでした。せっかく森の再生についての多くの課題が集まったところで、時間切れとなったのですが、来年は是非とも、むしろワークショップの方に重心を移した催しにして欲しいのですが、それでも初めての試みにしてはなかなか興味深いものがありました。なかでも、私が今抱えている丹沢の森の再生についてのビジネス・アイデアという視点から見えてきたことを、思いつくまま書き付けてみます。

認知度=0の宮脇さんの唱える《潜在自然植生》

まずは意外だったことから。森の再生手法の一つとして、私が最も最適な解決法と考えている《潜在自然植生》を構成する多層群落の苗木を植樹するということが、その候補にも挙げられず、参加者からはまったく度外視されている、この事実にはビックリしました。おそらく、ほとんどの人は宮脇昭さんや《潜在自然植生》をご存知ないか、または知っていても、丹沢の再生には向いていない、どこか遠い存在としてのイメージしかないようです。その訳を私なりに考えてみました。

例えば、現在丹沢の人工林で行われている森の再生の手法は、針葉樹林の一部を伐採し、明るい空間を作り、そこに広葉樹が成長するのを自然のサイクルに任せて100年ほど待ち、いわゆる針広混合林を形成するという、全国の自治体やNPOが採用している考え方です。この考え方の基本には、スギやヒノキの持つ生産材としての価値をどうしても捨てきれないという思いがあるようです。ですから、主役はあくまでも人工林であり、これらの林を広葉樹林に替えるという人工林と対立する概念である《潜在自然植生》の発想は生まれてはこない訳です。

しかも、たとえ自治体の補助があっても、間伐などの森林整備を放棄した民間の人工林を場合はなおさらのこと、所有者にとってスギ・ヒノキは大切な財産です。広葉樹林を育てて強くて本物の森を作るために、今のスギ・ヒノキに替えて、その森本来の樹種である《潜在自然植生》の苗木を植えましょうと言った所で、人工林の持ち主には何の説得力もないのでしょう。

希望が見えない丹沢の象徴=ブナ林

午後のワークショップでは、多くの参加者がブナ林の惨状について発言していました。そのほとんどは、ブナの枯死原因究明に関するものです。オゾン、二酸化窒素、温暖化、風の変化、そしてシカの食害なども話題に上がり、つまるところは複合的な幾つかの原因が考えられるが、そのほとんどが地球規模・全国規模のものであったりするため、私たちの手には負えないものであると、司会者の総括的な話しでまとめられ、参加者には絶望感だけが拡がったようです。

私も、丹沢のブナ林について書かれた資料を読むにつけ、これは(シカの食害による林床植生の衰退を除いて)手の付けられないほどの大きな問題のように考えていましたので、ただただ再認識させられたという思いです。なので私の考えるビジネス的手法での《潜在自然植生》による森林再生は、それが可能であれば標高800m以下の常緑広葉樹帯で始めることになりそうです。

丹沢の負の象徴=シカの食害

シカの問題も、ワークショップでは大きなテーマになりました。行政の担当者の説明によると、丹沢ではこの数年は1,500〜2,000頭/年の割合で捕獲しており、この状況で推移すると、徐々にではあるが、減少傾向にあるし、その傾向は今後も続くでしょう、とのことです。やがてシカが環境に対して安定的に生息できる頭数に落ち着くまで続けるということなのでしょうか。

このシカの問題について、日本では絶滅しているオオカミを持って来て、その過剰を淘汰するアイデアが出されたり、シカを2,000頭も捕獲して山中に埋めるだけではもったいない!何とか食肉ルートに乗せてシカ肉を食べることはできないものか?などの他、シカの不嗜好性植物の問題も含めて多種多様な話題で一瞬ですが、盛り上がりを見せたりしました。

シカの捕獲に関わるビジネス的な解決策の一つとして、ディア・レザーの、オシャレで付加価値の高い商品開発に結びつけることはできないものかと、私は以前この備忘録のなかで《丹沢のシカの皮革でファッション界と連携する》という夢物語を描いたことを思い出すのでした。

丹沢の自然再生本この日の報告会は他にも、山里の保存、登山と登山道の課題が取り上げられたのですが、総じて丹沢の再生に焦点が絞られ、このテーマに多くの人びとが参画していることを、今さらながら思い知らされた次第です。

そして最後に、『丹沢の自然再生』(日本林業調査会)という600ページほどのボリュームの立派な本をゲットしてきました。執筆者は丹沢大山自然再生委員会に関わる専門家を核にして60名ほどにおよび、今日の丹沢を網羅的に細かく記述した大変貴重な本です。

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