きのう(2014年11月23日)の昼過ぎ、TVの前に座って読むとはなしに新聞に目を通していたら、TVから「植生の権威である横浜国立大学の名誉教授=宮脇昭さんの・・・」などというナレータの声が突然聞こえてきました。「えっ?!」と驚いて慌てて新聞からTV画面に目を移すと、写真では何度も拝見し、いつの間にやら私には身近な存在になってしまった、例によって帽子をかぶった宮脇さんが、びっくり仰天!しっかりとアップでTVに写っているのでした。はじめての動く宮脇さんが突然私の前に出現したという訳です。
毎週日曜日の昼一時に始まるTBSの「噂の東京マガジン」という番組の中の出来事です。最初から少し詳しく説明すると、この番組のなかに地域の話題になったり、トラブルになったりした事件?をとり挙げては、番組のレギュラーコメンテイターがマイクを片手に現場に出かけ、その全容をレポートしてくれる「噂の現場」というコーナーがあります。この時のテーマは「沼津の宝。千本松原を守れ!津波避難用・築山計画!」。
静岡県沼津市の、あの富士山の遠景と大変マッチする海岸沿いの名所としても有名な千本松原に、津波避難施設として15mの高台を新しく作ろうと言う市の計画に対して巻き起こった騒動です。このプラン自体はなんの問題もなさそうですが、住民への説明もなく、議会できちんと審議することもないままに、松の木を伐採して津波避難用高台を作ろうとする市と、そういう行政の姿勢に住民が反発。「これまで沼津で大切にしてきた松を切らなければならない場所に、なぜ造らねばならないのか?一本も切らないで欲しい」と1,700人余りの署名を集め市長に提出する事態になってしまい、現在も工事はストップしているのだそうです。
そこで沼津市は植生の専門家も交えて、反対する住民との三者で協議をした、というのが今回の「噂の現場」の概略ですが、何と、この植生の専門家が宮脇昭さんだったのです。実際に宮脇さんがTVに登場した時間はわずか数秒という短かすぎるほどの扱いでしたが、しかも突然の出来事だったため、録画することもとっさに思いつかず、私の鈍い反射神経には反省することしきりですが、それでも宮脇さんは、この短い登場シーンのなかで簡潔明瞭に、(多少うろ覚えですが、確か)次のように発言されていました。
高台には、この土地本来の木である
シイ・タブ・カシの木を植えること。
そしてどうしても必要であれば、松の木も植えましょう。
宮脇さんの潜在自然植生の理念、そして、災害に強いのは深くて強い根を張る広葉樹だという実際の調査・経験からすると、しごく当然の分かりやすいパーフェクトな発言ですね。おそらく、宮脇さんは東日本大震災で津波被害を受けてほとんど流されてしまった松林の、災害に対しては脆弱なこと等「理論と実践」(宮脇昭著『森の力』講談社現代新書 サブタイトルから)の植物生態学者=宮脇さんならではの説得力のある説明を住民や行政にされたことと思われます。
その結果、当初は芝生で被われた高台というイメージだったのが、一転して《潜在自然植生の森》のイメージに変更されてしまい、防災というヒトの安全に関わるレベルになると、それまで主役級だった松の木もいつの間にか、二次的な脇役としてしか扱われなくなったようです。
このTV番組を見て改めて思ったことは、沼津のような津波の心配がある海岸沿いだけでなく、崩落の危険が指摘されている山の麓や高台の斜面など至る所に《潜在自然植生の森》をつくるのがいいという、宮脇さんの考えがもっともっと全国に拡がると、自然災害にたいする備えも向上し、もう少し安心できるようになるのではないか!?ということです。同時に、宮脇さんの後に続くようにして「山だけでなく街に森をつくる」(宮脇昭著『木を植えよ!』新潮新書 第八章のタイトル)や「自宅の庭に森をつくろう」(同 第九章のタイトル)という志をビジネスにつなげて行く可能性もあるような思いがします。