これまで『木を植えよ!』をはじめとした宮脇昭さんの書籍に教えを請いながら、その土地本来の潜在自然植生の森を再生するための、植樹の方法を少しずつ勉強しました。高木−亜高木−低木−下草で構成される多層群落の森をつくることの大切さや大変さも同時に学んで来たのですが、実際に丹沢の森を再生するために、どこからどうやって植樹の事業を始めるといいのやら、森という巨大な自然のスケールのなかで、木を植えるという極めて限定的なヒトの行いのギャップに戸惑いを感ぜずにはいられません。
そこで、今回は西丹沢の大山地域で植樹事業を始めてみると仮定して、具体的にどんな課題が降りかかって来るのか、そしてその解決策をも同時に考えてみたいと思います。その際に参考になるのが、先日の4回シリーズ《丹沢の植生は30タイプ》で活用させていただいた《自然環境保全基礎調査 植生調査 2次メッシュ情報》。日本全国の植生の詳細を1/25,000縮尺地図で見ることができます。
下図はこの中から取り出した大山地域の植生地図をgoogleマップと二枚重ねにしたものです。
東京ドームの面積に植樹すると、必要な幼苗は7万本
1/25,000の縮尺のスケール感を表すために、上の地図上に2つの水色の四角を地図上に置いてみました。 まったく目立ちませんが、よく探してみると地図の中央から少し斜め左下あたりにある小さい方の四角はおよそ4.7haの面積で東京ドームと同じような大きさです。また、その右下に置かれた大きな四角は100haの東京ドーム21個分の大きさがあります。 では、東京ドームと同じ面積の土地に植樹するとなると、苗木の必要本数と作業日数はどのようになるのでしょうか?
苗木の本数について参考になるのは《ポット苗ができるまで》。ここでは「12種類の幼苗を3本/㎡の割合で昆植・密植」しており、2種類の高木を2mの間隔で交互に植えることにしています。また、東京ドームを正方形にすると約216m×216mとなることから、2種類の主木は合わせて最大でおよそ108×108=11,664本(約1万本)。その他10種類の亜高木、低木(そして植樹時に必要であれば下草も)の幼苗を合わせると108×108×5=58,320本(約6万本)。総計7万本近くの幼苗が、東京ドームと同じ面積には必要になって来ます。
また、作業日数は1人の作業量を30㎡/1日とすると、机上の計算ですが、1,500人日(5名/1チームの場合は300日の作業量)という数字が出て来ます。更に東京ドームの21倍もあるような100haの面積となると、これを上と同じ300日で作業するとなると、5名/1組のチームが21チームも必要になります。
代償植生が圧倒的な標高800m以下の地域から植樹を始める
次にこの地域の植生を見ることにします。主な植生には赤い引き出し線とともに群集・群落名を付けていますが、高標高のヤマボウシ−ブナ群集および離れ小島のように残存するシキミ−モミ群集以外はそのほとんどが、代償植生であることがわかるなど、次の二つの特徴を持っています。
- 植生地図の東側および市街地に近い南部分の薄い土色部分はすべて人工植林
- 草色域も(高標高帯を除いて)その多くは人為的な影響を受けた後であらわれる二次林
以上のことから、800m以下に分布する二次林および人工林を潜在自然植生の多層群落の森に再生することを優先順位のトップに置いて、事業展開を図ることが基本になると思われます。次に800m以上の高標高地域に残るブナ林の再生に取りかかる必要がありますが、これには特に南斜面に被害を及ぼしていると思われる都市部で発生する大気汚染の問題、そしてシカの食害と、問題が複雑にからんでおり、多方面の関係者との連携と検討が必要になりそうです。