災害に強い常緑広葉樹

森の力私は、2014年11月26日の備忘録《鎮守の森がなくなる前に、対策を考える》のなかで、宮脇昭さんが大震災に襲われた被災現場を訪れ、著作のなかでその時の状況について書かれている「その一つ一つの記述は感動的ですらあります」と口走ってしまいました。そこで今日は、阪神・淡路大震災および東日本大震災の二つの被災現場に駆けつけた宮脇さんご自身の眼を通しての現場の様子を書き写しているその「感動的」な幾つかを『森の力』から引用しながら、改めて災害と常緑広葉樹の関係を考えてみたいと思います。

(1995年 阪神・淡路大震災発生後10日目)

私は小さな公園があるたびにタクシーを降りて木の様子を見に行きました。なかには市民の避難場所になっている公園もあります。そこには救急車両も止まっていました。
その公園の周りにあったのは、潜在自然植生の主木群であるアラカシ、シイノキ、そしてヤブツバキ、シロダモ、モチノキ、さらに潜在自然植生が許容するクスノキなどの常緑広葉樹です。
葉は焼けているものの、そこで火は止まり、木はまだ生きていました。アラカシの並木が特に印象的でした。小道一本隔てたその裏のアパートは延焼を免れています。おそらく常緑広葉樹のアラカシの並木が火を止めたのでしょう。
次に鎮守の森の調査を行いました。鳥居が傾き、建物も焼失している神社もありました。しかし、鎮守の森はどうでしょう。そこにあったシイノキ、カシノキ、モチノキ、シロダモは一本も倒れていません。
(宮脇昭著『森の力 植物生態学者の理論と実践』講談社現代新書 p157)

六甲山周辺の被害も最少でした。その斜面の下に連なる高級住宅地、ここでも土地本来の常緑広葉樹のアラカシ、ウラジロガシ、シラカシ、コジイ、スダジイ、モチノキ、ヤブツバキなどが元気に繁っていました。
鎮守の森、土地本来の森の力を改めて実感すると同時に、いままでの自分の現場からの主張が正しかったと確信した瞬間でした。(同上 p158)

(2011年 東日本大震災発生から三週間近く経った四月七日と八日)

 土地本来のホンモノの樹種は深根性・直根性であるがために、火事、台風、洪水、地震にびくともしない。ならば大津波にたいしてはどうなのか。試される日がまたもや突然やってくるのです。(同上 p158)

 震災直後の被災地は混乱しており、一般人はなかなか入れません。そのため、三週間近く経った四月七日と八日に第一回現地調査を実施。あまりにも冷酷で凄まじいばかりの被災地の姿に言葉を失いました。すべてが瓦礫と化していました。
その瓦礫を見た時、私はどう思ったか。「この瓦礫は使える」と確信したのです。それは、生態学者として、四○年間にわたって国内外で現地植生調査に基づく「ふるさとの森」づくりを行ってきた私の直感です。
海岸沿いの「白砂青松」と謳われたマツ林は大津波によってことごとく倒壊。しかも、根こそぎ倒れたマツが津波に流されて内陸にまで達し、家屋や車などに襲いかかるという二次的災害をもたらしているところもありました。その一方で、「白砂青松」の林床で自生していたマサキやトベラ、ネズミモチなどの常緑広葉樹は生き残っていました。
二回目の調査で訪れた宮城県南三陸町では、大きなタブノキが太い直根に支えられて、津波を押し返したかのようにしっかりと生き抜いていました。また、岩手県の大船渡中学校近くの道路沿いのタブノキなどもたくましく生き残っていました。
さて、千九百九十三(平成五)年に地元の人びとと一緒に木を植えた、仙台市に隣接したイオン多賀城店はどうなっていたのでしょう。建築廃材などを混入した幅二〜三メートルほどのマウンドの上には、タブノキ、スダジイ、シラカシ、アラカシ、ウラジロガシ、ヤマモモなどがそのままの状態で元気な姿を見せてくれました。
イオンでも震災から一週間後の三月十八日に多賀城店で独自調査を行いました。私たちが植えた木々が大津波を生き抜いたばかりではなく、大津波に乗って流されてきた大量の自動車などをしっかりと受け止めてもなお倒れていなかったのです。
これこそがホンモノの森の力です。(同上 p159-161)

引用が長くなってしまいましたが、被災の現場からの宮脇さんの声の一端を紹介しました。
阪神・淡路大震災では、常緑広葉樹の林が火事の延焼を食い止め、地震による山の斜面の崩落を防いでいることがわかります。来年2015年は阪神・淡路大震災から20年の節目になります。この間にも多くの自然災害が起こり、その都度多くの被害が報じられてきました。つい最近も広島県で山に隣接した住宅地を襲った土石流により、多くの人命や財産が押し流され、失われるという惨事を経験しています。

こうした自然災害を見聞きするたびに、宮脇さんの、上に書き写した言葉を思い出さずにはいられません。そして、あの広島の山の斜面の森の植生は一体どういうものだったのだろうか?常緑広葉樹の森でも防げなかったのだろうか?などと、崩れた山の斜面の映像や写真が映し出されるたびに、TVに食い入るように見てしまうのです。また、防災の専門家も「山の斜面の崩落、土石流を防ごうして国は、砂防ダムとか土石流センサーとか河川工事ばっかりやっているが、山には大雨に強い林床を作ってくれるような樹種の木を植えるようにしないといけないのですが、こんど(広島)の災害を受けての対策案を見ても、そんな大事なことが入っていない」と嘆いていました。まったく同感です。

そして東日本大震災で、津波に対して常緑広葉樹が果たした大きな役割、反対にマツの木があの大津波にはほとんど無力であるどころか、流されたマツの木が第二波、第三波の津波で凶器となって建物に(そしておそらくヒトにも)襲いかかる場合もあるということも知らされました。

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