宮脇理論批判に耳を傾けてみる(2/2)

ウェブサイト上にアップロードされた宮脇理論批判を取り上げてみる備忘録の2回目の今日は《イオンの森批判》。これも第1回と同じ鹿糠耕治さんが彼が所属する《青森の自然環境を考える会》のサイト上に2004年に載せたものです。タイトルにあるイオンの森とは、宮脇さんが流通大手のイオンとタイアップし、全国のイオン・ショッピングセンターのオープンに合わせて、潜在自然植生の樹種を植え、本物の森を作ろうとする壮大な事業のことですが、鹿糠さんのご指摘によると、2004年当時の青森県内のイオンの森に限って見ると、一部を除いてほとんどうまく行っていない!というものです。

ただし、この《イオンの森批判》はわざわざ「宮脇理論批判ではありません」と断り書き風にサブタイトルを付けていることでもわかるように、青森県のイオンの森がうまくいかず、失敗した理由が宮脇理論そのものにあるのではなく、それ以外のところにあると言うもの。そして以下の二つの点を、その主な原因に挙げています。(ただしこれらは2004年当時の印象であって、それから10年ほど経過した今日では、また違ったものになっているはずです。)

  1. 植樹から管理までの作業の実際が、宮脇理論通りではなかったこと
  2. 都市&生活空間での森作りでは、宮脇理論を多少はアレンジしてみる必要があること

1.イオンの森が「宮脇理論に基づいていない」については、

1)その土地本来の樹種ではなかったり、園芸種が植えられるなど、偏りが見られること。
2)宮脇理論を実践するには森の面積が絶対的に不足している事例があること。
3)植樹時の高木—灌木—草木の配置・バランスが悪いこと。

などの理由を列記し、「そのため美観に欠け、都市・生活空間の導線を考えない単一的な植樹が結果的に伐採・枝打ちなどの管理を必要とし、宮脇理論とは別のものになってしまった。」となる訳です。

2.「都市部での植樹には、宮脇理論もアレンジが必要」な理由として、

1)狭い場所に自然林をそのまま持ち込もうとすると、見苦しい景観になる。
2)森らしくなるのに20年かかると言うのだが、その間ずっとヤブでは見苦しい。

つまるところ、植樹から8〜15年経った青森県のイオンの森は一部を除いて「みすぼらしいだけのただの林でしかない」と厳しい評価を下しています。そしてこれらの見苦しさを取り除き、人びとに愛される森に育てるためには「街路樹としての植栽と割り切ることも必要」であるとして、鹿糠さんは森の美観という観点から、いくつ かの具体的な提案をしてくれています。

1)園芸種も含め、その土地の植生を守る
2)まずもって、次のような樹木の性質や特色を考慮した植樹レイアウトを描く。

  • 姿のいいもの
  • 花が楽しめるもの
  • 蜜源になるもの
  • 香りのいいもの
  • 果実の美しいもの
  • 紅葉の美しいもの

3)後でムダな伐採や刈り込みを避けるため、植樹は樹種毎に行ない、極端な密植はしない。

宮脇さんの植樹法の特長の一つはポット苗の「昆植・密植」にあるのですが、これを止めようというものです。理由は「ムダな伐採や刈り込みを避けるため」のようですが、宮脇さんの本を読むと、「昆植・密植」をしたからといって、ムダな伐採や刈り込みが生じて来ると言うものではありません。確かに植樹後三年ほどは下草刈りなどの管理は必要ですが、これは「昆植・密植」でなくても、必要になって来る作業だと思われます。その後、幼木達は競争しながら生育し、その過程で弱いものは淘汰され、自然と多層群落の様相を形作っていくとあり、従ってムダな伐採や刈り込みも不要です。

にもかかわらず、3)の提案が興味深いのは、十数種のポット苗を一斉には植えず、80%ほどに押さえておいて、後日改めて残りの樹木を植えるような場合どうなるのでしょうか?また、宮脇さんの本によると理想的な密植は1㎡毎に3種類の苗木を3本植えて行くものですが、これを2本/㎡にするとどうなるのか、いつかは植樹実験をしてみたくもなります。

この3)以外の宮脇理論批判・対案提示については、これまでの宮脇さんの本がしっかり答えてくれています。ここでは美観について、語っている部分を(少し長くなりますが)引用してみましょう。

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3.意外とフレキシブルな宮脇理論

宮脇さんの発想や考え方は、思ったよりも柔軟なようです。先日TVで拝見した際も(津波対策用の防災林を新たに作るにあたっては、どんな種類の木がいいのかと問われ)「シイ、タブ、カシなどのしっかり根を張って強い常緑広葉樹を主木に考えて、風光明媚なマツの木も欲しいというのであれば、これも植えましょう」と淡々とお答えになっていました。2011年の311では津波によって根こそぎ流されてしまい、一部では波とともに凶器となって襲いかかってきたという、マツの木を頭から否定することはありません。さすがです。

また、都市・生活空間に潜在自然植生の森を作ろうとする場合、景観も配慮する必要があるとしています。以下は、『木を植えよ!』(宮脇昭著 新潮選書 2006年)の「第九章自宅の庭に森を作ろう」からの抜粋です。

木を植えよ!s・・・小さな庭に植えた木でも、土地本来の森の主役の樹種であれば、万一の場合は防火林となり、また、深根性。直根性でも倒れにくいので、地震で家が傾いたり、倒れたりしても木が支えになり、逃げ出す隙間をつくってくれます。

阪神・淡路大震災では六千人以上の方がなくなりましたが、土地本来の木が崩れた家を支え、隙間から逃げ出すことができた例もありました。家のまわりに土地本来の樹木、照葉樹林帯であれば、シイノキ、タブノキ、カシ類、ヤブツバキ、モチノキ、シロダモ、カクレミノ、ネズミモチなどが植わっていれば、被害を最小限に抑止することができるのです。

見た目も重要です。道路から建物まで、すべてが人工の材料でできれいる都市で働いている人たちにとって、朝家を出るときや夕方帰ったときに、ほんのわずかでも立体的な緑の木立があり、また花など咲いている木があれば、心がやわらぐにちがいありません。

春咲く花として、土地本来の自生種であるヤマザクラや関東地方の海に近いところではオオシマザクラ、秋には紅葉するイロハモミジ、ヤマモミジなどを植えると美しいでしょう。植樹する総本数の五%から十%は、花や葉が美しい彩りのある木を混ぜると見栄えも良くなります。

また裾模様として、季節の花が咲く低木を植えることをおすすめします。冬の花ならカンツバキ、サザンカ、春の花ならよい香りのするクチナシ、ジンチョウゲ、また赤い実のなるマンリョウ、淡い紫色の花をつけ瑠璃色に輝く実のなるムラサキシキブ、南斜面であればサツキ、ツツジ類など、海岸沿いの潮風の影響を受けるところであればトベラ、シャリンバイ、ウバメガシ、浜ヒサカキ、ハマビワなどがふさわしいでしょう。これらはマント群落といわれる植生で、光や風が急に林内に入らないように樹林を保護する役割を果たします。同時に落ち葉が外に出ないでそのまま樹林の中に落ちるため、管理の手間が要らず、落ち葉もそのうち分解されて、木々の生育の助けになるのです。

さらに、低木が芝生裸地と接するところは、ソデ群落として、リュウノヒゲ、シュンラン、ヤブランなどの草本植物で彩ると、小樹林も健全に育ちます。見た目にも美しく、また林内に帰化植物の雑草も出にくくなります。

冬になると町や庭に彩りがなくなり、寒々しい印象になりますが、照葉樹は冬も緑のままで清々しく、新しい命を感じさせてくれます。そのエネルギーをもらって、人間もいつのまにか元気になっていくような気がします。

落葉樹は秋になるといっせいに葉を落とします。常緑広葉樹も落葉しますが、長持ちする葉は五〜六年も生きるそうです。クスノキは五月に新芽が出る際、急に落葉しますが、その他のシイノキ、タブノキ、カシ類は一度に葉が落ちることはありません。いつのまにか新旧の葉が交代しているのです。また、タブノキは春の新芽が淡い紅色で、七月頃に熟する種(漿果)の長い果枝はピンクで彩りをそえます。(同書p199-200)

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