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健全な常緑広葉樹林のカタチ

かつてこの備忘録の中で、宮脇さんの著作の中から、あるべき森の模式図を見つけ、そのイラストをなぞったものを載せたことがあるのですが、もう一度同じように模写してみたいと思い、宮脇さんの著書から探してみると『いのちの森を生む』(日本放送出版協会 2006年刊 p59)の中にありました。

このイラストにある草本を含めた樹林の構成種を数えてみると、全部で19種類になり、その内訳は高木3、亜高木6、低木4、草本6の多層群落から成っています。このような森の構造はどういう視点から見るべきなのか、また、その核心とは何か?その答えを例によって宮脇さんの『いのちの森を生む』から引用してみます。

いのちの森を生む自然の森は、垂直的にみると、上から高木層、亜高木層、低木層、草本(下草)層、および場所によってはコケ層から構成されている。
照葉樹林帯で見ていくと、高木層はタブノキ、スダジイ(イタジイ)、コジイなどである。スダジイは海岸沿いに見られ、内陸部では、葉が小さく種子(果実)も小さいコジイ(ツブラジイ)が育成していることが多い。種子を比較しないとわかりにくいので、一般にシイといってもいい。カシ類もわずかな立地条件の違い、散る的な違いで自生地がずれている。適温で土壌も深く、条件のよい内陸部では、根が最も深く伸びるシラカシ、その周りにアラカシ、さらに尾根筋や急斜面、高いところでは厳しさに絶えるアカガシ、ウラジロガシ、ツクバネガシ、中部以西、とくに九州ではイチイガシが優占して高木層を形成している。

それを支えている亜高木層には、ヤブツバキ、モチノキ、シロダモ、カクレミノなどがある。さらに低木層にはアオキ、ヤツデ、ヒサカキなど、草本層にはヤブコウジ、テイカカズラ、ベニシダ、イタチシダ、シュンラン、ジャノヒゲなどが生育している。

シイ、タブノキ、カシ類の常緑広葉樹で樹冠が形成されている樹林であれば、亜高木層、低木層、下草までのすべてが厳しい冬にも葉を落とさない常緑植物で構成され、多層群落の森を形成している。まず高木が太陽の光のエネルギーを吸収し、高木層の隙間から漏れて差しこむ光によって、亜高木、低木、草本植物などが光合成を営む。高木林内の亜高木、低木は一般に陰樹といわれ、高木層の樹冠から漏れる散光で生育し、日陰にも耐えられる植物である。これが垂直的な森のシステムである。

では、森が水際、草原などの開放空間と接する林縁ではどのようになっているのか。自然の森ではキブシ、ウツギ類などの低木やツル植物のカナムグラ、クズ、ツルウメモドキなどが林縁を裾模様のように覆っていて、マント群落と呼ばれる。さらに外側には、その裾に裸地や開放地と接してソデ群落と呼ばれるヤブジラミ、ヤエムグラなどが帯状に草本群落を形成している。これらは、林内に風や強い光が当たると乾燥して森の成立を不安定にするが、機能的には、長い時間をかけてつくられた、森全体を守る保護組織であるといえる。これが水平的な森のシステムである。(同書p58-63 )

このように、森の構造を立体的に捉えようとすると、高木—亜高木—低木—草本の多層群落を構成する垂直的なシステムとソデ群落—マント群落—樹林という構成をカタチ作る水平的なシステム、この二つのシステムの組み合わせとしてみることが大切だとわかりました。

そこで次の疑問にぶつかってしまいます。では、樹林の水平的な構造に不可欠なソデ群落—マント群落を構成する6種の草本類(ヤブジラミ、アカネ、クズ、ヤブコウジ、ベニシダ、ジャノヒゲ)も、植樹時には他と同じようにポット苗として用意すべきなのか?という疑問です。宮脇さんの本では、覚えている限りではドングリなど樹木のポット苗が主で、草本についての記述はないようです。そして、この問題には直接関係ないのですが「植樹祭では(通常は)十数種類の苗木を用意するが、時には30種を超えることも」という文章を読んだりすると、その30種のなかには草本も含まれるのだろうか、つまり用意できればベターだというその程度のものなのかと、思い悩んだりするのです。

また、宮脇さんの本を読んでいると、こんな記述を見つけたりもします。

森の力潜在自然植生に基づく幼木のポット苗を用いて、主木を中心にできるだけ多くの土地本来の森の構成種群を混植・密植すれば、15年、20年と経つにしたがって、高木層、亜高木層、低木層が形成されます。中には自然淘汰によって枯れる木も出てくるでしょう。しかし、そのままにしておけば、林床で土壌生物群によってゆっくりと分解されて養分となり、生き残った木々の成長を助けます。その間に、下草の種や胞子が野鳥や風によって運ばれて根付き、草本層も形成され、土地本来の潜在自然植生が顕在化したダイナミックで安定した多層群落の森が完成します。

多層群落の森の力は、あらゆる「いのち」を守りながら、百年、千年と生き抜くはずです。
(『森の力 植物生態学者の理論と実践』宮脇昭著 講談社現代新書 2013年 p127-128)

上記引用文の下線個所から想像すると、草本類は多層群落が成長する過程で、そのうち自然と形成されるものであることを意味しているようです。ポット苗と草本類の関係がおぼろげながらですが、わかってみると、次は植樹地の潜在自然植生を確定したい場合、近くに残存する鎮守の森を調べてみることが不可欠になります。では丹沢の場合、どのくらい離れた場所までが許容範囲になるのでしょうか?もちろん、標高や斜面の方角など幾つかの条件によるとは思うのですが、ついつい調べてみたくなります。

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