31種類もの樹の苗木を混植・密植する

標高500mの山の斜面に、常緑&落葉あわせて31種の苗木を植える。

これまで何度か宮脇昭さんが薦める《潜在自然植生》の樹種十数種類を混植・密植する植樹会には参加したことがあるのですが、今年の秋10月にnpo法人国際ふるさとの森づくり協会(renafo)が主催したそれは、標高が500mほどの丘陵の斜面に、この稿の最後に掲げる樹種一覧表にあるように、落葉広葉樹も含めた31種=いつもの二倍ほどもある種類の郷土樹木の苗木2,500本を植樹しようというものでした。

植栽地は中央道小仏トンネルと中央本線の鉄路(これもトンネル)に挟まれた、もう少し山奥に登ると山梨県と東京都を分ける小仏峠に行き着くことになるような山間の場所。その周囲は土木作業用の建物を除くと人家などはなく、時折山道を登山者が姿を見せるだけの文字通り人里離れた山の中となる。縮尺は少し異なるが、同場所を写した国土地理院の地図によると、現場の標高は500m前後になるようだ。

下の写真の、表土を堀り起こし客土した茶色い区域が今回の植栽予定地(約700㎡)になります。土木作業を終えた重機も引き揚げられ、ロープで植栽ブロック作りなどの植樹会当日の準備作業をしているところです。

この斜面は山の麓の一部のようにも見えるが、実は、50年前の中央道小仏トンネルの工事の際、出てきた残土を盛ってできたものらしい。今回の植栽面積は700㎡余りだが、renafoによると、今後5年ほどかけて5,000㎡ほどにおよぶ広さの残土の山全体を《潜在自然植生》の樹種で装う予定だという。

このように、今回の植栽地は50年前にトンネル工事の残土が盛られて出来た丘陵の斜面部分ですが、ここに土の塊りが現れて50年の時間が経ったという割には、写真の左上に見えるように、ススキなどの多年生草本、そして高木としてはせいぜい荒地にも適応し、その強い生命力から特別要注意外来植物にも指定されているニセアカシアが繁茂している程度でしかありません

植生の教科書には、今回のようなヤブツバキクラス域(常緑広葉樹林帯)にある裸地や伐採地がたどる運命は下図のような変遷=二次遷移を経て、200〜300年後には極相林を形作り安定すると書かれています。

この模式図によると、25〜30年後には落葉広葉樹を主木とし、その下には常緑広葉樹が低木として姿を見せ始めるような樹林が現れるとされており、今はその二倍近い時間を経ている訳ですから、ススキなどの多年生草本群落や高木といっても外来種であるニセアカシアだけが繁茂する貧相な顔つきの丘陵の姿には、意外な思いがしました。おそらく地下深い所から取り出し、ここに運ばれてきた土中には樹木の種子は一粒たりとも含まれておらず、土壌成分なども通常とは異なっていたのか、それら複合的な要因が理論と現実の大きなギャップを生んだ原因なのでしょうか。

いずれにしても、常識の外にあるような林相が示しているこの丘陵を舞台にrenafoの皆さんは、自然に任せるとそれが形作られるのに200〜300年ほど要するような極相林としての常緑広葉樹林の基本形をたった10年ほどで実現しようとしています。しかも、今までにないような31もの樹種の苗木を用意していることから、植樹から10年後にどんな森のカタチを見せてくれるのか?!が実に楽しみという訳です。では、次に(これは、もっぱら私の備忘のためにですが)31の樹木を一つずつ紹介することにしましょう。

低木だけの植栽ゾーンを作るなど、樹種の配置もフレキシブルに。

このように、今回の常緑に落葉広葉樹の苗木を交えた樹種数31というのもそうですが、低木を除いた高中木で構成されたゾーンや、またこれとは対照的に低木だけの植栽ゾーンを作るなど、従来の標準的な手法の枠を超えて、この土地ならではの環境や条件を配慮し、十分に練られた樹種の配置を生み出しており、私だけかも知れませんが、個人的にはこれらの自由な発想を取り入れた renafo の試みには大変興味深いものがありました。

最初に触れたように、植栽場所が山間の標高500mとは言え、そこはヤブツバキクラス域(常緑広葉樹林帯)に属しており、落葉広葉樹の高木・低木の苗木を加えたのは、どういう理由からなのでしょうか。周囲の林相を見渡してみると(写真下)人工林と常緑広葉樹林が圧倒する緑の所々の、特に道沿いに葉が色付き始めた樹木をみることができますが、これらはかつておじいさんが山に柴刈りに出かけていた当時の名残りのような気もします。

話しが少し横道にそれるが、注目したいのは、写真中央に写っている人工林の伐採跡である。その後きちんと苗木を植樹もしているようで、山肌も緑に覆われているのがわかる。ここでは林業は持続しているようである。国産材の価格も少し持ち直すなど、需要が回復しているのだろうか。もっとも、それが可能なのは林道沿いや製材加工工場に近いなどの立地条件に恵まれている所だけなのかも知れない。

では、 renafo は何故、この場所の《潜在自然植生》としての落葉の樹種も必要だと判断したのでしょうか。このあたりの私の素朴な疑問について参考になると思われる記述が『図説 日本の植生』(講談社学術文庫 2002)にあるようです。以下に、該当箇所を引用してみましょう。

照葉樹林帯は、シイ・カシ・クスノキ・ツバキ・イスノキなどの常緑広葉樹林からなる。この分布帯のなかでもいくつかの成層をしめす場合がある。たとえば下部照葉樹林帯(コジイ・イチイガシ・タブノキなど)と、上部照葉樹林帯(アカガシ・ウラジロガシなど)との区分のはっきりしている地域もある。上部照葉樹林帯が、モミ・ツガの針葉樹林に置き換わっていることもある。また、照葉樹林帯と落葉広葉樹林帯との中間につくられるものとしてイヌブナ・クリ・コナラなどにモミ・ツガを交える樹林がある。これは暖かさでは照葉樹林の成立の条件を満たしながらも、冬の寒さがきびしいため、やや異質の森林帯として成立するという意見がある。
(沼田眞・岩瀬徹共著『図説 日本の植生』講談社学術文庫  p22)

引用文の最後のある《暖かさでは照葉樹林の成立の条件を満たしながらも、冬の寒さが厳しいため、やや異質の森林帯として成立する》のではないか、という指摘がポイントになります。実際、山道を利用しているこの地域の人々から植栽について次のような要望があったそうです。《この区域の冬は、道路が凍結してしまうほどの寒さに襲われる。なので、その危険を少なくするためにも、道の周囲は冬も陽光を妨げる常緑広葉樹の高木を除いてもらうと有り難い。》と。

そしてこの地元の皆様の要望に renafo は、道に沿って常緑と落葉が混在した低木樹種だけの植栽ゾーンを作ることで応えたのでした。この低木ゾーンは植栽面積全体のおよそ10%ほどで、残りの90%は低木を除いた高木・亞高木だけの、常緑&落葉広葉樹が混在する植生にしたのが特徴的です。この今までに私が経験したことのないような、自由度の高い植生の10年後をイメージしたイラストを置いておきます。

(この稿未完)