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森の再生1)潜在自然植生調査1/3

これまで備忘録に書きつけたなかで、宮脇方式による丹沢の森の再生に向けての一連の作業を順序を追って紹介したそれぞれのパートを、もう一度整理しながらまとめてみるのもムダではないように思います。そうすることで、残された課題はもうないのか、ということも自ずと明らかになるはずです。

宮脇式フロー

上図は宮脇式森の再生作業を潜在自然植生の事前調査を含めて6つのパートに分類してみたものですが、これらの作業内容はこれまでにも備忘録で何度も紹介していますが、ここで改めてマトメの学習をしてみようと言うものです。その一回目は《丹沢の潜在自然植生調査》について。

これまで《丹沢の潜在自然植生調査》に関わることを備忘録では、繰り返し紹介しています。そこでその一つ一つをピックアップしてみましょう。

以上《丹沢の潜在自然植生調査》について、ザッと見通しただけでも15以上のものが挙ってきましたが、筆者の多少の進歩は見られるものの、その多くは重複しての記述がほとんどだと思われます。ここで一つに集約してみることにしましょう。

1 . 丹沢大山総合調査学術報告書(2007年)

丹沢大山の植生全般については、神奈川県のwebサイトにアップされている『丹沢大山総合調査学術報告書』 (2007年)にその詳細が記載されています。この備忘録を始めた頃は、もっぱらこの報告書からの引用に頼っている感がありましたが、今になってそれらの 記事を読み返してみると、そのほとんどが忘却の彼方に消えてしまったようで、学習者としては再度書き写すことで頭の中にしっかり蓄えることにします。

下の引用は、私が植樹地として想定する標高700〜800m以下の低標高域の植生に限定されていますが、このなかで特に留意しておきたいことは、丹沢大山の常緑広葉樹林(ヤブツバキクラス)はそのほとんどがスギ・ヒノキ植林にとって替わられており、常緑広葉樹林はごく一部の尾根などに残存するにすぎない!という記述です。

丹沢大山の常緑広葉樹林(ヤブツバキクラス)は、今回の調査では、ヤブコウジ—スダジイ群集、サカキ—ウラジロガシ群集、イロハモミジ—ケヤキ群集、アラカシ群落の3群集1群落にまとめられた。これらの常緑広葉樹林の多くは標高700~800m以下の山地に分布している。西丹沢,大山などの一部地域では標高 900~1,000mの尾根や南向き斜面にヤブツバキクラスの常緑植物を伴うアカガシ林が分布しており、局所的なヤブツバキクラス域の上昇が認められる。現在,丹沢大山のヤブツバキクラス域はスギ・ヒノキ植林が広く占めており、常緑広葉樹林はごく一部の尾根などに残存するにすぎない。面積的にまとまりのある常緑広葉樹林は大山・札掛・大洞沢・境沢・本谷川周辺のモミ-カシ林(サカキ-ウラジロガシ群集)が挙げられる。これらの地域では近年、モミの衰弱、枯死が進行しており、今後の動態に注視する必要がある。また、ブナクラスの森林群落と同様に、丹沢大山の常緑広葉樹林においても総じてシカ(一部、イノシシ)による林床植生の強度のかく乱(喫食・踏み付け)が認められる。低木層、草本層の退行に伴う土壌流出や森林の更新阻害など多くの問題が懸念される。 丹沢大山地域の常緑広葉樹林は、標高700~800m以下の低標高域において野生生物の環境収容力を適正に保持するための鍵となる植生でもあり、その保全・再生に積極的に努めてゆく必要がある。(以上、報告書第2章/第1節/1植生/1.丹沢大山の植生—シカ影響下の植物群落—p17より転載・下線は筆者)

◎ヤブコウジ-スダジイ群集の群落断面模式図
ヤブコウジ-スダジイ群集の群落断面模式図

AF: Abies firma モミ, CJ: Cinnamomum japonicum ヤブニッケイ, CS: Castanopsis cuspidata var. sieboldii スダジイ, EG: Elaeagnus glabra ツルグミ, EJ: Eurya japonica ヒサカキ, GN: Gardneria nutans ホウライカズラ, QA: Quercus acuta アカガシ, QS: Quercus salicina ウラジロガシ, TA: Trachelospermum asiaticum var.intermedium テイカカズラ. 記載地は日向山(標高380m)
(以上、イラストおよびそのキャプションは報告書同上p19より転載)

2 . 潜在自然植生の概念と潜在自然植生図(横浜国立大学学術情報リポジトリ)

丹沢の潜在自然植生調査に欠かせない資料として次におススメなのが、宮脇昭さんが自らお書きになったと思われる《潜在自然植生の概念と潜在自然植生図》というwebサイト横浜国立大学学術情報リポジトリにアップされているPDF資料。丹沢という固有名はタイトルにはありませんが、この地域の植生についてその詳細が記述されています。以下は該当部分の引用です。

・・・・以上のような時間の流れのうえに、現存植生が、さまざまな人間の干渉下に代償群落(substitutional vegetation; Ersatzgesellschaften)におきかえられているところでは、今一切の人為的干渉を停止したとき、その立地がどのような自然植生を支え得る潜在能力をもっているかという、理論的に考え得る自然植生は現在の自然植生(today potential natural vegetation; Heutige potentiell naturliche Vegetation)と呼ばれる(Tuxen 1956, 宮脇1967,1 972a 他)。
潜在自然植生は、現存植生、原植生についで、第3の植生概念とも呼ぶことができる新しい植生概念である。現代の自然科学が現象科学として発展してきたあまり、生物社会の発展能力や立地の潜在自然植生のような、すぐに直接計量できない要因や概念については避けて通るような傾向が強かった。
しかし、自然破壊や環境破壊の事実を把握する場合にも、いわば顕在化している個々の症状から自然環境破綻の本質を見極めることがもっとも重要である。本質が見極められず、現象的な個々の汚染という症状に対しての、場当たりの対策だけでは不十分である。また最近急に言われだした緑化の問題を一つ取り上げても、その立地の潜在自然植生に対する知見がなく、あるいは調査もされないで、その時々の人間の好みによって植えられても、育成しなかったりいつまでも管理費が嵩み、十分な環境保全、自然の多様性回復に対しての役割は果たしにくい。
自然度の高い高山、離島などのような自然景観域では現存植生は、そのまま立地の原植生および現在の潜在自然植生と一致する。したがって、神奈川県下でも丹沢、大山、箱根のヤマボウシ—ブナ群集やイロハモミジ—ケヤキ群集域などで、自然植生の残されている植分では潜在自然植生の把握は容易である。
しかし、箱根や大山、丹沢のような山地にあっても古くから疎放的でも持続的に人間の干渉の加わっている、しかも自然植生の回復が容易でない山頂風衝部などでは現存の代償植生と自然植生の生育域が複雑に錯綜している。・・・・・・・(途中省略)・・・・・

神奈川県下の大部分を占める海抜700〜800m以下のヤブツバキクラス域では、人間によって植生が変化させられる以前の自然植生では、定期的に冠水する河川沿い、湿原や海岸砂丘、河口や内湾の定期的に海水や汽水に浸る塩沼地以外はほとんど冬も緑の常緑広葉樹林で被われていたと考えられる。しかも、今日なお真鶴半島、三浦半島の一部に残存しているイノデ—タブ群集、ヤブコウジ—スダジイ群集のように冬も緑の常緑広葉樹で占められていた。また秦野盆地、多摩丘陵のような内陸部の関東ロームに被われた土壌の厚い大地や斜面上にはシラカシ群集の典型亜群集とケヤキ亜群集、砂層を伴った丘陵上部や尾根部はモミ亜群集で占められていた。
これらの潜在自然植生と一致する常用広葉樹林では、高木層を形成するスダジイ、タブノキ、シラカシはもとより、亜高木層のヤブツバキ、モチノキ、ネズミモチ、シロダモなど、低木層のアオキ、ヤツデ、ヒサカキ、マンリョウ、マサキなど、さらには草本層のヤブラン、ジャノヒゲ、シュンラン、ヤブコウジ、シダ植物のベニシダ、イノデ、ヤマイタチシダなどに至までほとんど常緑植物から成り立っている。しかし、われわれが冬季にヤブツバキクラス域の山野を望むと、ほとんど地上部は落葉あるいは枯死したクヌギ、コナラ、エゴノキ、クリ、ヤマザクラなどの木本植物やクズ、カナムグラなどのツル植物、ススキ、トダシバ、シバなどの草本植物から成り立っている。夏緑(または落葉)広葉樹や《潜在自然植生》植物からなり立っている植生の多い文化景観、人間の生活域では、冬季の植生の季観(Aspekt)から、長い間の人間の干渉がいかに自然の植生の種組成や、その配分を変えてしまったかがわかる。(上記資料p29—p32より転載)

以上《丹沢の潜在自然植生調査》について、二つの資料から丹沢の再生のために(700〜800m以下の低標高域で)植生すべき具体的な樹種が高木から草本までの多層群落のカタチをして見えてきます。(次に続く)

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