前回の備忘録はnhktv番組《明治神宮 不思議の森―100年の大実験》を紹介しながら、森の深化のプロセスをたどってみました。それは、かつて関東地方の平地に拡がっていたであろう常緑広葉樹を主木とする太古の森を現代に再現してみるという壮大な実験でもあったようです。
設計段階では、およそ150年後には常緑広葉樹の森として一応の完成形にたどり着くと予想したそうですが、実際にはその2/3の時間の100年でこの予想を実現してしまいました。植樹後はヒトの手を加えることなく、まったくの自然に任せることで、常緑広葉樹を主木とした高木—亜高木—低木—下草からなる多層群落、そして土の中の小動物、バクテリアなどを加えた循環する豊かな生態系を形作りながら、原生林に近い森が現れてきたという訳です。
以上のように、自然に任せるという神宮の森の植栽コンセプトは、今まで様々な角度から紹介してきました宮脇式植樹法と同じものであり、自然に対する態度も両者には通底するものがあるように思えます。なので、これから丹沢の再生をビジネス手法により図ろうと考える者にとって、神宮の森の100年後の姿には、随分と勇気づけられるという訳です。と同時に、はたして宮脇式植樹法で育てる100年後の森はどうなんだろうと、大変気になるところです。
そこで、神宮の森と宮脇式の森との植栽を比較しながら、宮脇式のポット苗から育てる森の100年後を想像してみたいと思います。最初に二つの森の樹種の違いをみてみましょう。
このように、神宮の森では針葉樹、常緑広葉樹、落葉広葉樹からなる多くの樹種が全国から集められましたが、森の設計者はいずれ常緑広葉樹との競争に負けて枯死しやがて消え去ってしまう運命にある針葉樹とかつて太古にはこの土地本来の樹種(潜在自然植生)として栄えていた照葉樹の常緑広葉樹そして落葉広葉樹を計画的に配置し、150年後をみすえた植栽を行ないました。
実際には100年後の現在、写真のように常緑広葉樹を主木とする太古の森を見事に再現しており、最近の調査では針葉樹、常緑広葉樹、落葉広葉樹の割合がそれぞれ10%、70%、20%となって常緑広葉樹が他を圧倒している様子が数字の上でも確認できます。
神宮の森がmax10mほどの樹高の幼木の植樹からスタートしたのに対して、宮脇式丹沢の森はドングリを集めて播種し芽が出るのを待ってポット苗に移し替えることから始めるため、森のプロセスが前者の較べ、10〜20年程の遅れが出てくる可能性があります。
また神宮の森では、競争に負けて枯死し倒れてしまった針葉樹の代わって次の幼い樹木が生長するという樹木の世代交代が頻繁に見られますが、宮脇式丹沢の森は最初から常緑広葉樹を主木とする16種類ほどの潜在自然植生を植栽するため、世代交代というダイナミズムを飛び越えることになりそうです。そのため、より密度の高い森の深化が進むようにも思えます。(続く)