今日のタイトルに使ったエコロジカル(ecological:生態学的)という言葉は、かなり狭い意味で、つまり「潜在自然植生という生態学的な脚本にしたがって、それぞれの地域に適した樹種の選択を間違わずに本気で進めれば、森づくりは必ず成功する」(宮脇昭著『苗木三000万本 いのちの森を生む』NHK出版 2006年 p175)という文章で使用されているのと同じ意味で用いています。つまり、丹沢の森を《潜在自然植生》に基づいて再生する事業を進めるための、グランドデザインを描いてみようというものです。
これまで宮脇昭さんの『木を植えよ!』(新潮選書 2006年)を教科書に《潜在自然植生》という脚本に導かれるようにして、森の作り方を学んできたのですが、今日はこれを基盤にその前後左右を固めることで、丹沢の森を再生する事業として完結するような、一連の流れをカタチ作ることを目指してみたいと思います。今日はその第一回目。
まず、森の種類についておさらいです。ここで目指す森作りとはもちろん、《潜在自然植生》に基づいて多層群落が形成された自然林です。つまり、高木、亜高木、低木、下草がセットになって持続的に維持できる自然の森のシステム(極相林)を目指します。この自然林が事業の第一のゴールとなります。そこで、この第一のゴールへと到達する道筋をたてることが必要になってきますが、ゴールへのプロセスは、全体像が見えた後でまとめることにしましょう。
1.再生する丹沢の森林域を選定し、樹種を決める
最初に再生を目指す森の借地契約を結びます。公用林であれば国や自治体、民有林だと地権者、森林組合など所有者との交渉により、森の再生を目指す事業の意義をお互いに共有した上で、事業内容、区域、期間等を明記した借用契約を結びます。
1)借用林を決めるにあたって、考慮する事柄
以下の3点をベースに区域をゾーニングし、再生度の難易度を抽出、ランク付けをします。
- 自然林・二次林・人工林の割合
- それぞれの植生劣化のレベル
- 獣害(主にニホンジカの食害)のレベルとそれに伴う対策(コスト)
次に、森は尾根から斜面、谷などその立地条件は変化に富んでいます。実際の植樹プロセスはこれらの要件を一つ一つ加味しながら、すすめることが大切です。また、日本の森のなかには、民有・国有を問わず、保安林の指定があります。下図は保安林の全体に占める割合と役割を表したもの。その目的は様ざまのようですが、保安林での植樹の場合は、ガイドラインみたいなものがあるのでしょうか。確認する必要がありそうです。
2)潜在自然植生の確認・決定
ゾーニングという器が確定すると、次にその器に入れるもの=樹種を決めましょう。いよいよゾーンごとに、主木となる高木から下草までの多層群落を形成する潜在自然植生のモデルを決めていく作業になります。
丹沢の800m以下の常緑広葉樹林(ヤブツバキクラス)には主な群集である《ヤブコウジ-スダジイ群集》の他にも《サカキ-ウラジロガシ群集》・《イロハモミジ-ケヤキ群集》・《アラカシ群落 》が分布し、高標高の夏緑広葉樹林(ブナクラス)域に分布する群集・群落も多彩なモデルが拡がっているようです。それぞれの群集・群落が構成する潜在自然植生をゾーンごとにこまかく抽出する必要があります。
以上の要件を整理すると、以下のようなゾーン別の植樹種の一覧表(例)ができあがります。
*:保安林に指定の場合は目的を記入。
**:林床植生の5段階評価は神奈川県ウェブサイトの《丹沢全域の相対的な植生指標としての植生劣化レベルと林床植被レベル》を転用しました。主にシカによる植生被害を数値化し5つのレベルに分けたものです。
次に、ゾーン別の植樹作業の難易度を表す一覧を作ります。
3)ゾーン別の植樹優先度の決定
ゾーニングごとの植栽群落プランが決まれば、最後に植樹作業に入る順番を決めていくことになります。林床植生の劣化が深刻なゾーンの植樹優先度を高くする、また、人工林から自然林への復元ゾーンの優先度を上げるなど、植樹予定地の植生回復のポテンシャルを予め把握すると同時に、一貫した戦略基準のもとで、植樹スケジュールを決定します。
また、潜在自然植生の分布と、尾根や谷など地形との関係を考慮し、予め作業難易度を把握しておくことも必要になってきます。人工林跡地と急斜面での作業は植樹種の違いはもちろん、作業時間も異なってくるからです。
(続く)