ポット苗から育てる森、百年後の姿4

シリーズ《ポット苗から育てる森、百年後の姿》の4回目は宮脇方式の植栽密度について考えてみましょう。宮脇方式の植樹の最大の特長は何といっても《混植・密植》にあります。

植栽比較

上の図の左が《混植・密植》の植樹模式図。1㎡にそれぞれ種類の違う3本の苗木を植えた場合のもので、右の1本のシラカシしか見当たらない図は現在の神宮の森の実際の植栽状況になります。神宮の森には直径が1mを越える太い幹をもつ常緑広葉樹が250本近く見つかっているので、おそらく上図のような状態で見られるはずです。

ところで、宮脇方式の森づくりも目指すゴールは神宮の森のような常緑広葉樹を主木とする潜在自然植生の豊かな樹林ですが、実際に図左から100年後は図右のように変化するのでしょうか。左と右とではあまりにも密度が違い過ぎるようです。宮脇方式による森の試みは日本でも1970年代初頭から始まっており、植樹から30〜40年を経た森つくりの途中のプロセスをここ横浜でも観察することができます。先日の備忘録にも登場した2カ所の事例をもう一度見てみましょう。

事例1:横浜国立大学常盤台キャンパスの環境保全林(1979〜)

 横01-02

 

この大学の構内に伸びる環境保全林の植樹は1979 年なので、今年で35年が経ちます。遠景だと、路の両側に並ぶ常緑広葉樹林はこんもりと茂った森のような印象(写真01)ですが、少し近づいてみると密植のためか樹木間が密になり余裕がなく、樹木はひたすら上へ上へと垂直に伸びようとして枝葉に乏しい生育状態が確認できます(写真02)。

横03とはいえ、左(写真03)のように遮蔽物のない空間が拡がる道路の外側に廻ってみると、ここがおそらく南側にあたるのでしょう、樹林の裏側では枝葉が太陽の光を求めてサイドにも大きく張り出して、高木から低木まで混ざった深い緑が続く豊かな植生を見ることができます。

ここで思い浮かべるのは、宮脇方式の最大の特長である潜在自然植生の多層群落を構成する幼苗の《混植・密植》が果たす役割についてです。その土地本来の常緑広葉樹林または落葉広葉樹林(関東地方では標高800m〜1600mの山地)を再現するために人の手を加えないまったくの自然遷移に頼ると200〜300年は時間を要するのに対して、遷移を短期間で進める方法が宮脇方式の《混植・密植》による手法だと宮脇さん彼の著作のなかで言うのです。『森の力 植物生態学者の理論と実践』(講談社現代新書 2013)からその箇所を写し出してみましょう。

森の力遷移というのは、ある植物共同体が、他の植物共同体に移り変わる過程のこと。確かに火山の噴火などによって生じた裸地上の自然の遷移では、時間をかけてゆっくりと植物が土壌をつくり、その土壌がより安定した植生の発展を許容することになります。

従って、一次的な自然遷移の場合には、日本では200〜300年、熱帯地域では300〜500年以上かけないと土地本来の自然林は成立しないと教科書は教えてきました。実際に海岸の埋め立て地などでも、自然林に遷移するのにその程度の時間がかかると思われます。

しかし、広域的な気候条件は数千年来ほぼ同じです。異なるのは土壌条件のみ。私はこの点に着目しました。

そこで、有機質に富む通気性のよい表層土を覆土することにより、短期間で土地本来の「ふるさとの森」づくりができるのではないかと考え、実践し、実証してきたのです。

最初は最低厚さ20〜30センチ程度の表層土を覆土する。というのも、植物の根が三大要素である窒素・リン酸・カリウムをはじめとする養分を吸収するのは、地表から20〜30センチ、深くても50センチなのです。もちろん木を支える主根は、通気性のよい土壌で呼吸さえできれば、3〜6メートルぐらいまで地中深く伸びていきます。

表層土に潜在自然植生に基づく樹種をポット育苗で根を発達させてから混植・密植することにより、短期間で土地本来の森としての機能を備えさせる。その時点で、植物はゆっくりと自分の土をつくるようになる。そう考えたわけです。

《宮脇方式》のポット苗は、最初は樹高30〜40センチ、植樹して3年で3メートル、5年で5メートルと順調に育っていきます。植樹後3年ないし5年も経てば、小さいながらも土地本来の森の原型を整えていきます。その後、生育するにしたがって、自然淘汰を繰り返しながら木々は、自分たちで自分たちの落ち葉などで、土をつくるようになります。その結果、20年から30年ほどで限りなく自然に近い土地本来の多層群落の森、潜在自然植生の顕在化が可能になるのです。(同書p116-119)

以上のように、宮脇方式でつくる潜在自然植生の森のキーワードは、《表層土》と《ポット苗の混植・密植》。この方法だと、「20年から30年ほどで限りなく自然に近い土地本来の多層群落の」森ができてくるのです。今回の事例として取り上げた横浜国立大学の環境保安林が植樹からちょうど30年が過ぎた時期に当たり、横幅は4〜5メートルと狭いながらも、数キロにわたり続いている様は十分といっていいほど、森の様相を呈しているようです。

横04-05

 

次に、この環境保安林の中に入って撮った写真が上の2枚(写真0405)です。この写真を見るかぎりでは、横幅4〜5メートルに林立する樹木の大きさを比較すると、内側の木は外側に較べて細く小さく、どうしても光の補足からすると外側の方が競争に優位に立っているようです。

場所によっては数十センチの間隔で木々が乱立し、よく見るとそれらの木は多くが曲がりくねった幹の形をし、見た目にあまりきれいではないように思えました。これから50年、60年後にはどういう変化を見せてくれるのか、おそらく内側の細く小さい木は競争に負けて淘汰され、一歩一歩神宮の森に近づことになるのでしょうか。次回は、宮脇方式のもう一つの事例を見てみます。

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