《潜在自然植生》の森のカタログを作る2

前回はスローガンおよびロゴタイプを作ったところで時間切れになってしまいました。カタログ作りはやっぱり簡単には進まないようです。《潜在自然植生》の森のカタログを作る2回目の今回は、《潜在自然植生》の定義から始めたいと思います。

1.  《潜在自然植生》の森を定義する

木を植えよ!s宮脇さんの著作はすべて《潜在自然植生》とその森についてをテーマにしているものですが、例えば『木を植えよ!』(新潮選書  2006年)のなかでも、《潜在自然植生》について様々な視点から繰り返し書かれています。まず《潜在自然植生》に関する記述をこの本のなかからランダムにピックアップし、私なりにまとめてみたものをa〜eの5つに分けて以下に列記してみます。

《潜在自然植生》定義a:

植生の歴史を振り返ってみると、最初にヒトの接触が始まる前の植生としての《原植生》がある。かつてヒトが自然の森の生態系を乱していなかった時代、その土地の環境に適応した植物群落によって構成されていた植生のことである。その当時日本の国土の98%が森林に覆われていたといわれている。

この《原植生》の対立概念として《現存植生》が挙げられる。伐採・植林・汚染など直接的なヒトの手による攪乱を含め、ヒトの干渉を受けて形成されたもので、日本では手つかずの自然と思われている林や森も、そのほとんどが人の手が加わった《現存植生》と言われている。

《潜在自然植生》定義b:

上で述べた《原植生》とも《現存植生》とも異なる第三の概念として、昔からあるその土地本来の樹木の構成に近い植生を《潜在自然植生》という。今もし一切のヒトの干渉を停止した時、現在の立地条件が生み出すであろう植生のことである。では、上述のように「ヒトの干渉を停止した」場合、自然は何故《原植生》に戻らないのだろうか。それは長い間のヒトの活動の影響により、立地や環境が変えられている可能性があり、すぐに原始の自然植生である《原植生》が再現されるとは限らないからである、と宮脇さんは説かれています。

《潜在自然植生》の森は、高木層+亜高木層+低木層+草本層からなる多層群落を構成しているが、眼に見える地上の景色に加え、落葉等の有機物を分解しミネラルに還元するカビやバクテリアからダニやミミズまで様々な種類の土壌生物が豊かな森の生態系を育んでいることも忘れてはならない大切なポイントでもある。

このような自然の森に限りなく近い多層群落を形成していれば、個体は数百年ごとに交代しても《潜在自然植生》の森のシステムはほぼ永久的に安定して維持できる(と、宮脇昭さんは力説している)。

《潜在自然植生》定義c:

このような《潜在自然植生》の森は、かつて全国至る所で「鎮守の森」と呼ばれた昔の社寺林に見ることができた。「鎮守の森」は神仏を崇め敬う聖なる場所として古来よりヒトの侵入を排除してきたからである。しかし今日では都市化による土地需要の急激な高まり、宗教観の変化等さまざまな要因により、ヒトの管理から逃れた「鎮守の森」はわずかを残してほとんどその姿を消してしまったと言われている。

今は貴重な存在になった「鎮守の森」だが、それでも明治神宮・伊勢神宮・高野山・比叡山などにある大きな森は比較的原生の森に近い残存自然林としての様相を示しており、日本でも数少ない大規模な「鎮守の森」と言うことができる。

特に《潜在自然植生》を新しい森つくりの基本に考えるものにとっては明治神宮の森は極めて示唆的である。この森は造園から極力ヒトの手を入れることなく樹木の成長を自然のプロセスに任せることを基本としてきたが、100年を経過した今日、常緑広葉樹を主木とした多層群落の豊かな森を形作ることに成功した奇跡の森とも言われている。

《潜在自然植生》定義d:

明治神宮の森が常緑広葉樹を主木としているように、標高800m以下の関東地方以西ではシイノキやタブノキ、カシ類などのその土地本来の高木である常緑広葉樹林帯が拡がっている。そしてこれらの高木および高木を支える亜高木—低木—草本類は一般には以下のようになる。

常緑広葉樹林一覧

常緑広葉樹林に対して関東地方以西に拡がる二次林であるコナラ、クヌギ、クリなどの落葉広葉樹の雑木林は、かつてヒトが化石燃料や化学肥料を持たなかった時代に彼等の生活の必要から広く利用されてきた。しかし、これらの落葉広葉樹林もこれを維持するのに不可欠な伐採・植林・枝打ち・間伐・下草刈りなどヒトの管理がストップするとシイノキ・タブノキ・カシ類が大きく成長し、150〜200年後には土地本来の常緑広葉樹の森が再生すると言われている。実際に、明治神宮の森でも植樹当初は針葉樹・落葉広葉樹・常緑広葉樹の三種類の樹木がバランスよく配置されていたのだが、管理を自然のプロセスに任せた結果、100年後の今は土地本来の主木である常緑広葉樹が神宮の森を牽引するようになっている。残念ながら、この地では針葉樹・落葉広葉樹は常緑広葉樹との競争に破れ、衰退する運命にあったようだ。

《潜在自然植生》定義e:

定義の最後に。《潜在自然植生》に基づくその土地本来の自然に近い(私なりに表現すれば)「天然の森」の再生を目指して全国で植樹活動を実践しているのが宮脇昭さんである。宮脇さんの素晴らしさは《潜在自然植生》という新しい概念を提唱するだけではなく、この仮説がホンモノであることを実際の植樹活動で証明してしまったことにある。すでに国内で1,300カ所、海外を含めると1,500カ所以上で《潜在自然植生》に基づいた環境保全&防災林を手がけ、大きな成果を挙げていることは、宮脇さんの著作の多くのページで読み、見ることができる。また望もうと思えば、その実践の現場に育つ防災・環境保全林をいつでも、幾つでも観ることができる。

宮脇さんの植樹活動は、とりわけ東日本大震災以降は、地震やその結果としての津波や火災、山崩れに対して示された常緑広葉樹の優れた防災機能をフュチャーし、都市部における防災林の必要性に重点を置かれているように思われる。時代の要請からすれば当然でもあるが、他方では、依然として山やその麓における《潜在自然植生》に基づいた自然再生の需要も高いのではないだろうか。

(この稿未完)

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